第10話 ペペと【時空魔法】は使いよう
ボクの仕事は戦闘が終わった後から始まる。
「あん? どうしたんだよ?」
「ゴブリンの耳集めだよ」
アベルにそう返すと、ボクは持っていたナイフでゴブリンの右耳を切り取っていく。これを冒険者ギルドに持って行くと、ゴブリンを倒した証明として認められ、討伐報酬が貰えるのだ。
「ん?」
気が付くと、パーティのみんなが興味深そうにボクを見ていた。
「どうしたの?」
「いや、なんかなあ?」
「うん。たしかに必要なことではあるけど、嫌がるのかなと思ってたから……」
アベルとクレトにとって、ボクの行動はちょっと意外だったらしい。
「ボクは戦えないからね。こういうところで仕事しないとパーティに居場所なんてないんだよ」
「…………」
ボクの一言が予想外だったのか、みんな黙ってしまった。
「ちょっと離れててね」
ボクは四匹のゴブリンから耳を切り取ると、時空魔法を発動する。
それは真っ黒な厚さのない空間だった。
「何これ?」
ダリアが指を伸ばしたので、ボクは急いでダリアの手を取った。
「えっと、これがボクの魔法なんだけど、これ、実は危ないんだ」
「危ないの!?」
「うん。これ、見てて」
ボクは落ちている枝を拾うと、真っ黒な空間の隅に枝の先を触れさせる。
すると、枝はまるで鋭利な刃物によって斬られたように先端を失っていた。
「ボクもよくわかってないんだけど、この空間の狭間に触れると、何でも切れちゃうんだ。だから、触らない方がいいよ」
そう言いながら、ボクは空間の狭間に触れないように注意しつつ、ゴブリンの右耳を真っ黒な空間の中に仕舞っていく。
「あの、見当違いなことを言っていたら申し訳ないのですけど、その力で戦闘することはできないのですか?」
セシリアが不思議そうにボクを見ながら質問してきた。
「この力で戦闘を?」
そういえば、今までどれだけ大量の荷物を持つことばかり考えていたけど、この力を戦闘に使うのは考えたこともなかったな。
「ちなみに、例えばその黒いものの大きさは変えられるのでしょうか?」
「うん。変えられるよ」
ボクはみんなを切らないように注意しながら、真っ黒な空間を大きくしたり小さくしたりする。
「なるほど。ちなみに、有効範囲はどれくらいでしょう?」
「魔法の有効範囲?」
そういえば、今まで近くに空間を広げて物を入れることしかやっていなかった。
ボクの魔法の有効範囲をボク自身も知らない。
「ちょっと試してみるよ」
ボクは軽い気持ちで真っ黒な空間を可能な限り遠くに移動させる。
すると――――!
「え……?」
黒い空間が通った行った跡、大きな太い木の幹の真ん中に丸い穴が開いていた。ちょうどボクの収納空間くらいの大きさだ。穴はまるでヤスリをかけられたように綺麗な断面をしている。
穴を覗くと、どこまでも丸く切り抜かれた空間が続いていた。
これ、ボクがやったの……?
「やはり……」
セシリアがまるで予想通りのように呟く。
「マジかよ……!?」
「これ、すごいことなんじゃない!?」
「すごいよ、ペペ!」
この結果には驚いたのか、みんな驚きの声をあげている。
でも、たぶん一番驚いているのはボクだ。
まさか、【時空魔法】にこんな使い方があるなんて考えもしなかった。
「ペペさん、この力を攻撃に転用すれば――――」
「うん!」
ここまでくれば、鈍いボクでもセシリアの言わんとしていることがわかる。
「ありがとう、セシリア! キミはボクの救世主だ!」
ボクはこんなすごい攻撃力を元から持っていたのにその価値に気が付かず、ただの『荷物持ち』として一生を終えるところだった。
「アベル!」
「お、おう?」
「ボクはこの力で戦いたい! みんなの役に立ちたいんだ! だから、ボクも前衛に加えてくれないかな?」
「おう! その意気だ! いいじゃねえか、冒険者らしくなってきやがった!」
アベルがボクの背中を叩いて上機嫌に笑っていた。
「気付いていたと思うが、俺はお前が気に喰わなかった。冒険者だってのに向上心の欠片もねえ! そんな奴をパーティに入れることは、本当は嫌だったんだ。でも、今のお前なら大歓迎だ!」
「え?」
たぶん、この時初めてアベルはボクをパーティの仲間として認めてくれたのだろう。
でも、今までとまったく違うフレンドリーな態度にこっちがビックリしてしまう。
「その目だ」
「ボクの、目?」
「そうだ。さっきまで死んだ魚みたいな目をしてたんだぜ? でも、今のお前の目はキラキラ輝いていやがる。その目をした奴は信じられる。明日を信じているからな」
「うん!」
なんだか年下に諭されているような気分で恥ずかしさも感じたけど、アベルに信用してもらえたならよかった。この信用を裏切らないように、ボクも努力しないと。
「そうと決まれば、おかわりだ! ダリア! もう一回ゴブリンを連れて来てくれ! ペペの力の確認もしようぜ! へへっ、盛り上がってきやがったな!」
「わかったー! 行こ、ペペ」
「うん!」
なんとなくだけど、ボクはこの時初めて本当の意味でパーティの一員になれた気がしたんだ。
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