26 玉藻は阿修羅に舞い 剣奈はツバメが如く跳ぶ (フォト絵)
「ここはダンジョンの外よね?ここなら私は闘っていいのかしら?」玉藻が微笑みながら聞いた。
「うん!あ、でも
剣奈は玉藻の猛烈な妖力がダンジョンを外側から破壊してしまうことを恐れ、基本方針を念押しした。
「わかったわ」
「あ、でもヤバいときは命優先だから」
「はい」
玉藻は緩やかに両腕をクロスさせた。そして優雅に、ゆっくりと両腕を開いた。舞いを見るようだった。
広域の敵に複数の蒼三日月刃を同時に放つ舞踏型の必殺技、
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン
玉藻の両腕からいくつもの
背後百八十度の敵、二十五匹の黒犬に
ブワァ!
二十匹の黒犬があっという間に殲滅された。凄まじい威力である。しかし。
ピシピシピシ
背後の山肌に幾筋もの亀裂が走った。
「あらあ?極限まで力を抜きましたのに……」
玉藻が不思議そうに首をひねった。玉藻、隙だらけである。
その無防備な玉藻に蒼三日月刃を逃れた五匹の黒犬が迫る。蒼三日月刃の軌道下に幸運にもいなかった五匹が。
黒犬らは玉藻に向けて一斉に攻撃を仕掛けた。二時と十時の方向から跳躍してきたのが二匹。低く駆けてきた三匹は二時、十二時、十時の方向から同時に猛スピードで迫ってきた。五匹の黒犬が玉藻を襲う。
しかし。
「うふふ。せっかちなのね」
玉藻は右上方に右手を振り上げた。玉藻の右手を高く掲げた型は、まるで
一瞬の静止。次の刹那。
さながら
ブワッ
玉藻の右に跳躍してきた黒犬、そして左から低く駆けてきた黒犬が黒塵と化した。
次の瞬間、左に捩じられた身体が流れるように右に捩じ戻された。左手は右肩に添えられていた。左腕は身体の回転にわずかに遅れて優雅に地面に向けて斜め前方に円を描くように振られた。
ブワッ
真ん中低く駆けてきた黒犬と右前方から低く駆けてきた黒犬があっという間に黒塵と化した。
しかし。左から玉藻に跳躍していた黒犬が玉藻に迫る。黒犬は大きくアギトを開けた。今、まさにその黒犬が玉藻の首筋に食らいつこうとしていた。
しかし。
フワリ
玉藻の右肩に添えられていた左腕が
斜めから跳躍してきていた黒犬の左頬めがけて玉藻の
ブワッ
最後の黒犬が黒塵と化した。円陣の後方半分、二十五匹もの黒犬はあっという間に殲滅した。たった一人。玉藻の活躍によって。
―――― 一方、剣奈。
剣奈に向けて二十五匹の黒犬が殺到していた。黒犬らを扇に見立てると、その根本、
「んんん♡らいぃぃぃ!」
剣奈は左に身体をねじった。そこから抜刀しつつ来国光に剣気を流した。ケントライトニングアタックである。
剣気によって長く伸びた白黄の刃が振るわれた。抜刀逆一文字斬りの刃閃が描かれた。
ヒュン
樋鳴りの音がした。
ブワッ
剣気によって長く伸びた来国光の長刃。それが殺到する黒犬を一斉に斬った。十八匹の黒犬が一瞬にして消えた。
この時点で残る黒犬は剣奈の前に扇状にばらけて七匹、玉藻の前に同じく扇状に展開した五匹。
剣奈の前方、七匹の黒犬。たまたま長刃を潜り抜けたものが四匹。本能的にバックジャンプしたものが三匹。幸運と手練れの七匹であった。
七匹は突然その歩をとめた。剣奈の長刃を警戒したのである。しかし。
「んんん♡スプラーシュ、シュ、シュ」
右に振り切られた来国光を持つ手の
ヒュン、ヒュン、ヒュン
樋鳴りの音が三度鳴った。
ピシュ、ピシュ、ピシュ
白黄の針が飛んだ。さらに。
「んんん♡スプラーシュ、シュ、シュ」
ヒュン、ヒュン、ヒュン
ピシュ、ピシュ、ピシュ
連続してさらに三本の飛針が飛ぶ。扇状に展開していた敵に向けて。
ブワッ ブワッ
扇状にばらけていた六匹の黒犬が白黄の飛針に貫かれてあっという間に黒塵と化した。玉藻に迫った五匹の黒犬は剣奈の飛針攻撃と同時に殲滅させられていた。
残る敵はわずかに一匹。剣奈の真正面にいた。
「んんん♡」
タッ
剣奈は跳んだ。左足で地面を蹴って前方に跳んだ。左足はカモシカの様にスラリと美しく伸びた。前足は美しく膝を起点として折りたたまれた。バレエに例えれば、グラン・ジュテから片足のみのパ・ドゥ・シャに移る動きであろうか?
夏風がこの技に名前を付けるとしたら
しかし剣奈である。
「ケントツバメアターック!」
なにやらおかしなつぶやきとともに跳躍がなされた。そして黒犬が目前となる刹那。右腕がまっすぐに伸ばされた。左腕は後ろに引かれた。体軸は右肩が前、左肩が後ろになる右半身。そして伸ばされる来国光。刺突。
ヒュッ
樋鳴りの音がした。
ブワッ
最後の黒犬が黒塵と化した。
タンッ
着地した剣奈が振り返った。後ろに敵は、黒犬は……、一匹もいなかった。
ただ玉藻だけがそこにいた。美しかった。微笑んでいた。
◆剣奈&玉藻
https://kakuyomu.jp/users/SummerWind/news/822139837539950186
しかし…
「きゅうちゃー!」
剣奈は見た。見てしまった!鋭く斬り裂かれた岩肌を!
「あらぁ?おほほほほ」
玉藻は微笑んだ。ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ顔が引きつっていた。
「まったくもう。手加減下手なんだから」
「あらぁ?これでも力を抜きましたのよ?そう。極限まで力を……」
「じーーーー。じゃぁ……あの裂け目は何?」
「あ、あらぁ?も、もとから裂けていたのかしら?危ないわね」
「あははははははは」
剣奈は笑った。
「うふふふふふふふ」
玉藻も笑った。
二人の英雄は顔を見合わせ和やかに笑っていた。
「ていっ!」
「いたっ。もう!」
剣奈のチョップが玉藻の頭にヒットした。もちろん玉藻は痛みなどみじんも感じなかった。しかし……、玉藻は大げさに頭を抱えた。
「やっぱきゅうちゃは戦闘なしね!できるだけね。窮地に陥らない限り……」
「きゅうちのきゅうちゃ……それもまた良きかな」
白蛇がリュックから顔を出して赤い舌をちろりと出した。
玉藻はばつが悪げにその顔を眺めていた。
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