第4部-第29章 再び膨らむ借金
母が退院して二週間。
病院代と光熱費の支払いで、通帳の残高は底が見えていた。
年金支給日までの生活費を計算すると、どうひねっても足りない。
冷蔵庫には、卵とネギと少しの味噌だけ。
母は「卵雑炊でも作れば大丈夫よ」と笑っていたが、その笑顔の裏に無理をしているのが見えた。
浩一は、あの日のコンビニATMの光景を思い出した。
――また借りればいい。今回だけ、今回だけだ。
夜、こっそりとカードを持って外に出た。
ATMの画面に「ご利用可能額:3万円」と表示される。
ボタンを押す指が、ためらいなく動いた。
現金を受け取るときの機械音が、今では耳に心地よくすら感じられる。
1万円は生活費に、残りは「万が一のため」と財布に入れた。
だが、その「万が一」はすぐに訪れた。
母が通院の帰りに転び、薬代やタクシー代が余計にかかったのだ。
返済日が近づくと、請求額に「利息」という数字がまた増えていた。
金額は小さいはずなのに、不思議と返す気力を削いでくる。
結局、返済のために新たに借りるという悪循環が始まった。
母には何も言わなかった。
「ちょっとしたへそくりがある」と繰り返すうちに、自分でもその嘘を信じたくなっていた。
だが、心の奥底ではわかっている。
この道は、どこかで確実に行き止まりになると。
その行き止まりが、思ったよりも早く、そして容赦なく訪れることを、このときの浩一はまだ知らなかった。
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