旨いぞ!イカシロバラムツ
驚きが驚きを呼ぶ状況の中で、ミフネは甲殻の鉄板で焼いた魚の切り身を俺の方に渡して来た。
「取り敢えず食べれば?、身体に合う食べ物を食べたら、身体が良くなるから」
「そ、それもキメラ細胞って言うのが関係している、って事ですか?」
俺の質問にミフネは頷いた。
「そ、キメラ細胞は、他の食材を分解して、瞬時に肉体の細胞へ変化させる力を持つの、肉体に適した食材だったら、キメラ細胞は進化の為に細胞に取り込む」
こんな風にね。
と、ミフネは自らの指を俺に見せた。
彼女の指先は、包丁の様な形状をしていて、指の皮膚が甲殻類の鋏へと変化していた。
「蟹のプレデターを食べたら適合したんだ、名前は確か……『
シオマネキ……ガネ漬けが美味しい食材だっけか。
片腕が異様に大きい鋏を持つ甲殻類で、ある地方ではシオマネキを生きたまま磨り潰して味付けをして食べるのだ。
俺も食べたが殻の触感がガリガリして生の蟹を食べている、と言う感じがしてワイルドさを覚えるから好きなんだよなぁ。
「其処に転がってる車の残骸くらいの大きさで、名前の通り、腕の鋏が太くて長い、鋏じゃなくて、大きな太刀を持っている様に見えるから、そんな名前がついたんだって」
「へえ……ミフネはそれを食べたんですよね?それ、美味しかったですか?」
「食べる?」
そう言って、ミフネが自らの指を俺の前に突き出した。
……え、まさかこれを食べろって事ですか?
ここじゃあ、他人の肉体から出した食材を食べるのは普通の事なのだろうか……。
そして差し出された以上、食べない事は失礼に当たるのではなかろうか。
ならば仕方なし……俺は彼女の鋭い指先に口を近づけて、先端を舌先で舐めた。
「うわ」
そして指を引っ込められる。
なんですか、その反応は。
「本当に舐めるとは思わなかった……うわぁ」
ちょっと、引くんじゃないんですよ。
こちとら、この世界の常識とか全然分からないんですから。
「冗談、こっち」
そう言って、彼女は自らの水着の中から何かを取り出した。
それは、薄くなる様に磨かれた甲殻類の板だった。
「ヘンシンするには、自力で踏ん張るか、食材を食べないと成れないから、こうして持ち歩いてんの、『
成程……俺はそれを受け取って食べようとした。
……と言うか、彼女は水着の中からこの食材を取り出していた。
即ち、少なくともこの食材は、彼女の肉体に付着していた代物。
彼女の汗や角質が付着した食べ物と考えると、少しだけ変な気分になってしまう。
いやいや……人間の肉体を食べる事に興奮するワケではない。
「では、……頂きます」
俺は口の中に放り込んだ。
そして、恐る恐る、噛み砕くと、案外軽く噛み砕く事が出来た。
ボリボリと、硬い煎餅の様な触感だ、噛めば噛む程に旨味が広がる。
(美味いな……甲殻だけど薄く削ってるから噛み砕く事が出来る)
暫く咬み続けた後、ふと俺の肉体から痒みの様なものが発生した。
その痒みは次第に指先へと集中していき、獣の肉を食べた時と同じ様に指先から甲殻類の爪が指先から出て来る。
「へえ、キマイラって食べ物を食べるとその食材の特性が出るんですね」
面白いけど冷静に考えたら気持ち悪いな。
これ色んな料理が入ってる食べ物を食べたら色んな食材が俺の肉体に反映されるって事だろ?
「……」
こちらを見詰めるミフネは、何故か目を丸くしていた。
なんだろう、と思いながら俺は彼女に話し掛けようとした時。
「こっちも食べてみて」
魚の切り身を俺の方に向ける。
ああ、香ばしくて良い匂いがする、俺はごくりと、魚の切り身に視線を向ける。
「じゃあ、こっちも頂きます……」
俺は魚の切り身を摘まんで口に運ぼうとする。
魚の切り身は軽く表面を鉄板で炙っただけだ、ミディアムレアとなった魚の切り身の表面からは、淡白な白身である筈なのに、じんわりと魚肉から滴る脂がポタポタと落ちていた。
「あむ。じゅぷっ……ん、ッ?!」
口の中に広がる甘味、これは、魚の脂であろうか、ねっとりと舌先に絡みつく魚の脂には臭みは無く、むしろ芳醇な香りを引き立たせるチーズを食べた様な気分だった。
(うわ、淡白な白身なのに、ねっとりとしてる……しかも引き締まった身がコリコリして歯応えがある、新鮮で取り立てのイカの切り身を食べたかの様に、噛めば噛むほど甘味が増してくる、そして熱を加えたせいか、脂が簡単に溶けて、大トロにも引けを取らないぞ、この魚ッ)
こんな美味な食材を食べた事に俺は感動してしまう。
「……適合したね」
ミフネは俺の顔を見てそう言った。
え、と思って俺は頬に触れると、指先に滑らかでコツコツとした感触を覚えた。
そして、それを引っ張ってみると、毛を抜くくらいの痛みと共にそれが抜ける。
真っ白な鱗が俺の手に収まっていた。
ええ、この魚も適合したって事?これ色んな食材食べたら全部の力を得るって事?
「あの」
俺は分からない事はミフネに聞こうとしたのだが。
「むふ、んッ」
彼女の顔は次第に蕩けていた。
ほっぺたでも落ちてしまいそうと言いたげに、片方の頬を手で押さえて、笑みを零している、その姿を見て俺は……嬉しい気持ちになった。
(そっか……美味しいもんな、今まで食事は一人で食べてたけど……隣に誰かいると、こんなにも美味しさが増すのか)
単純な事を忘れていた。
俺は魚の切り身に視線を向けて、ふと笑ってしまう。
世界中を旅して巡って来たけれど、その殆どが一人旅。
けれど、今の俺には近くで一緒に食べてくれる人がいる。
その人が美味しい食事を食べて笑みを浮かべている様を見るのが、俺は好きだったんだ。
そんな事を忘れていたなんて……美食を愛する者として失格だ。
「ミフネ、この魚、なんて言うんですか?」
そして食事の席には会話もまた必要である。
俺はこの感動を胸に刻み付けたくて、魚の名前を聞いた。
ミフネは口を開けて、魚の切り身を口に運ぼうとする前に名前を教えてくれる。
「イカシロバラムツ」
へえ、イカシロバラムツ……ん?
バラムツって、人間の体じゃ消化できない、ワックスエステルを多く含んだ、あの……食べ過ぎると下痢になってずっとトイレに籠りっ放しになるって言う、あれ?
「食べ過ぎると尻から脂が出るけど、キメラ細胞なら上手く消化してくれると思うから」
……でもそれって、キメラ細胞に適合したらの話ですよね!?
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