第2話 守護霊……清正丸

 はぁ……昨日は散々な目にあった。

 入学早々、不良認定はされてないだろうが、変人認定はされてしまった。

 それもこれも鳳凰院ほうおういんを助けたからか?


 いや、鳳凰院は悪くないな。

 悪いのはあの大怨霊だ。

 俺の聖域に土足で踏み込みやがって。

 とりあえず今日からは大人しくしよう。


 しかし、新品のブレザーは一日と経たずに天寿てんじゅまっとうし、長袖Yシャツのみ。

 不思議と涼しさが、心を凍らせてくるぜ。


「いってきます」

「おはよう」

「うわああああ!? な、なんで俺の家に!?」


 思わず尻餅をついてしまった。

 玄関から外に出ると、鳳凰院が立っていた。


「守護霊の居場所くらい分かるわよ」

「分からねーよ! あと何度も言うが、俺は鳳凰院の守護霊じゃないって!」

清正きよまさ! うるさい! 近所迷惑でしょ――え?」


 母さんが騒ぎを聞きつけてやって来てしまった。


「え? 出会い系? 清正、スマホ出しなさい」


 母さんが詰め寄ってきて、小声で言ってきた。


「やってねーよ! 息子をなんだと思ってんの!?」

「お母様、お騒がせて申し訳ありません。私は寺澄君の同級生の鳳凰院黎花れいかと申します。以後、お見知りおきを」


 寺澄てらすみ家では今まで見たことも聞いたこともない所作で挨拶をする鳳凰院。


「あ……あらあら。これはご丁寧にどうも。清正の母です」


 母さんが寺澄家の威信をかけて応える。


「清正! やっぱり高校出会い系アプリでもやったの!?」


 そしてまたさっきの繰り返しだ。


「やってねーって! いつもので助けたら、なんか感謝以上に勘違いされちゃって。守護霊認定されちゃったんだよ」


 家族には俺の霊能力のことは話してあるので、だいたいアレで通じるのだ。


「そうなのね。たまには悪霊も役立つのね」

「ポジティブすぎだろ。息子の身を心配してくれ」

「何言ってんの! あんな美人さんとお近づきになるのなら悪霊や怨霊の一匹や二匹祓ってなんぼでしょ! 守護霊上等よ!」


 もう母さんは俺ではなく、鳳凰院の味方になってしまった。


「ごめんなさいねー。鳳凰院さんでしたっけ。同級生だったのね。百年に一人の美少女すぎて驚いちゃったわ。清正がいつもお世話になっています」


 まだ出会って一日しか経ってないけどな。


「では、あとは若い二人に任せて――清正、しっかりやりなさいよ!」


 最後に俺を小突いて、家の中に戻ってしまった。


「それで、鳳凰院。一体何の用? 守護霊の状態確認?」

「制服のブレザーを届けにきたわ」


 鳳凰院は言葉どおり下ろし立ての服を掲げて見せた。


「制服? ありがとう。でも、数日かかるって聞いたけど」

「私の守護霊なのよ。一日で作ってもらったわ」

「ん、んー? 鳳凰院が頼んでくれたのか? ありがとう。助かった」

「……どういたしまして」


 なんてことのないお礼には照れるのか。

 ますます分からない奴と思いつつ、ブレザーに袖を通す。


「ピッタリだけど、俺のサイズどうやって」

「私の守護霊なのだから、スリーサイズくらい当然知ってるわよ」

「……なんか、もうツッコミをいれるのも疲れてきた」

「守護霊だけに憑かれた?」

「……その霊ギャグは本当にやめろ。昔を思い出す」


 ◆


「この辺りは悪霊や怨霊がいなくて平和ね」


 鳳凰院から逃げられるわけもなく、一緒に登校する流れにもっていかれた。


「俺が片っ端から祓ってやったからな」

「強いのね。修行したの?」

「修行はしてない。ある日、なんかキレたらわりといけた。あ。でも、昨日の時止めの法術は修行したおかげだ。なんか通りすがりのお坊さんに教えてもらった」

「強い上に才能豊か。さすが私の守護霊ね」

「守護霊、守護霊言うけどな。一応俺にも名前あるんだけど。寺澄清正って名前がだな」

「守護霊……清正丸きよまさまる

「それっぽく丸をつけるな」


 まあ、変わり者ではあるが悪い奴ではない。


 昨日の話で思ったが、あんな大怨霊に憑かれていては霊障なんて当たり前だ。

 友達と話す機会がなく、距離感が分かっていないだけかもしれない。


 幸い俺は除霊パワーに目覚めてからは、数は少ないが男友達はいたからな。

 学力の差で他の奴らは光之宮ひかりのみや学園を受験しなかったけど。 


「ってか、鳳凰院。どうやって俺の家を見つけたんだ」

「チャネリング……御守りの波動を感じて」

「御守り?」

「そう。御守り。ペアルック」

「え? 何時の間に?」


 鳳凰院が自分のバッグに付けている恋愛成就の御守り。

 それが俺のカバンにも付けられていた。

 全く気づかなかった。


「でも、ペアルックの御守りだからって、居場所が分かるわけが……ん? なんか硬い物が入ってる?」


 御守りの口を開けると、黒い小型の機械が出てきた。


「もしかしなくてもGPS?」

「……最新鋭のチャネリング」


 鳳凰院は目を泳がせ、ぽつりと呟いた。


「GPSは、チャネリングじゃねーだろ……」


 距離感が分からないと言うよりも、やっぱ本来の気質かもしれない。 

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