眼鏡受付嬢の失敗しちゃった初体験はインキュバスの伊達男が美味しくいただきました!(カクヨム版)
ケロリビドー
第1話 リネットの初体験
「くそっ、くそっ、なんでだよ!」
わたしはリネット。冒険者ギルドの受付の仕事をしている。そして今、ベッドに横たわるわたしの体の上で、悪態をつきながら自分の持ち物をつかんで試行錯誤している男はエリックという。わたし、ダンジョンに潜って生計を立てる冒険者のこの人についこの間告白されて恋人同士になったばっかりで、今日は初めてベッドを共にしましょうということで家に上げて始めたところだったんだけど、どうもなんだか今日は彼の具合がよくないらしかった。
「えっと、わたし女だからよくわからないけど、そういうことってよくあるって聞くよ? わたしも初めてだしタイミング悪いのかも……また別の日に試してみても……」
「うるせえな!! わかったような口利くんじゃねえよ! 大体おまえがずっと睨んでるから気になって勃たねーんだよ!!」
「えっ、睨んでなんてない……。わたし目が悪いから眼鏡かけてないと目つき悪くなっちゃうだけだよ……嫌なら眼鏡かけるから……」
「眼鏡かけたらよけいブスじゃねーか! あーあ! やめたやめた! 大体俺は別におまえみたいなパッとしねえ女好みでもなんでもねえんだ!」
「……は?」
肝心な時に役に立たなかったのがよほどプライドを傷つけたのか、エリックの暴言は止まらない。わたしがドン引きしてるのにも構わず、どうして自分がわたしに近づいたのかを聞いてもいないのにべらべら話し続けた。曰く、どうやら所属している冒険者パーティーの中で彼は立場が一番弱くて腰抜け呼ばわりされているらしく、受付の女の子の誰かを口説いて落としたら見直してやってもいいとリーダーに言われたらしい。どうしてわたしだったのかと口を挟んだら唾を飛ばしながら眼鏡がダサくて一番ブスだから男慣れしてなくて自分でもいけそうだったからなどとしゃあしゃあと答えた。
「人を馬鹿にするのもいい加減にしてくれる!!????」
自分でも行けそう、とエリックが口にしたあたりでわたしはプッツンとキレた。気が付くとそこらにあるものを手あたり次第に彼に投げつけ、服を着る猶予も与えずに集合宿の廊下に蹴りだす。わたしよりは腕っぷしの強い冒険者にそんなことをするのは無謀だとあとで反省したけど、このときは怒りの方が勝っていた。彼の服や荷物をひっつかんでぽいぽいと廊下に投げると、わたしは大きな音を立ててドアをバタンとしめ、鍵をかけた。
「二度と来ないで! もう恋人でもなんでもないから!!」
エリックがどんどんとドアを叩きながら怒号をあげているが、無視する。あー最悪。両手で顔を覆って、遅れてずしんと胸を襲った落ち込みをしばらく受け止める。
「はー、お酒でも飲もう……」
エリックが部屋に来るって言うからいいお酒とかつまみを用意してたのに、彼がそんなこといいからとがっついてきておいて結果がこれ。おいしいものたちが不甲斐なくて泣いちゃう。わたしだって泣いちゃう。ドアの向こうのドンドンを無視してテーブルに酒盛りの用意をし、一人で呑み始める。しばらくそうしてるとやがて廊下は静かになった。諦めたらしい。
「は~、美味しい。やけ酒じゃなかったらもっと美味しいのに……」
乾酪チーズの臭みをいい具合に消しながら喉の奥へ滑り込んでいく果実酒がお腹にたまってぽっと熱くなり、怒りに興奮していたわたしを落ち着かせてくれる。できたら事に及ぶ前にこうやって和やかにお酒を呑みたかったのに……。そんなこと呟いて、意味もなく二人分のグラスに注いだそれを空にし続けていると、不意にオレンジ色の手が、呑む者のいないグラスを手に取った。
「そう? じゃあオレがもらってもいい?」
「どうぞ……」
「いただきまーす。お、たしかに美味い。この乾酪チーズもめちゃくちゃ合うね。君、食べ物選ぶセンス最高じゃない?」
「え? 本当? わー、うれし~……って誰!!!?????」
あまりに自然にいるのでしばらく気が付かなかったが、突然の闖入者にわたしは椅子から飛びのいて驚いた。眼鏡から覗いた視線の先では知らない男の人が堂々と座って飲み食いしていた。知らない男の人っていうか、肌がオレンジ色で、髪の毛は緑がかった銀髪。それを頂く頭からは白い角が二本ぐるりとねじれて生えている。人間じゃ、ない!!
「どうも。お邪魔してます。オレ、ダンディレオンっていうんだ。インキュバスだよ。よろしくね」
「い、インキュバス……男の淫魔ね? いつからいたの? どうしているの?」
「さっきの男が怒鳴りだしたくらいかなあ、精気を取りに夜の散策中でさ。無視してもよかったんだけどどっちかが怪我するかもしれないのを見過ごすのもなあって思ってちょっと待ってた」
インキュバス。生き物の精気を吸収して生きているらしいいわゆる淫魔。人間に混じって街にいるって噂は話半分で聞いてたけど、実際見たのは初めてだった。ギルドの受付としてはモンスターとして扱うべきなのか隣人として扱うべきなのか判断が難しい種族でもある。
「も~、勝手に人の家に入っちゃだめなんですよ……」
「淫魔にそれ言っちゃう? まあでもごめんね。愚痴付き合ってあげるから許してよ」
「うーん、まあ、せっかくだしそうさせてもらおうかな……」
今日のことは結構恥ずかしいトラブルだ。あんまりこういう深い話ができるような友達もいないし、職場の同僚は噂好きだからもっと言いたくない。わたしは目の前の派手な彼に、ありがたく感情のゴミ箱になってもらうことにした。
「おお情けない。勃たなかったことが情けないんじゃなくて慰めてくれさえしてる女の子に怒鳴るのが情けないね~」
「そうよそうよ。それにブスなら自分でも行けそうみたいなのがほんっとありえない。でも告白されて嬉しくなっちゃってああいう奴って気が付かずに付き合っちゃったわたしが一番ありえない~!」
「君別にブスじゃなくないか? あ、そういえば君の名前まだ聞いてないや。名前なんて言うの?」
「……リネットよ」
「へえ、かわいい名前だね。あのさ。未遂で終わったってことは君まだ乙女なんだよね。あんな情けない奴に取られなくて良かったじゃない。なあ、君さえよかったらなんだけど……初めての相手、オレにしとくってのはどう?」
「へ……?」
お酒で気持良くなってぼんやりしてるわたしの目の前に、恐ろしくかっこいい顔が近づいてきていた。宝石みたいな紫色の瞳に、目の周りをほんのり赤くしたわたしが映ってる。
「自分勝手で乱暴な野郎よりずっといい気分にさせてあげる自信あるよ。君さえよければ今日の嫌な気持ちを塗り替えてあげる。美味しいお酒のお礼もしたいしね」
ばちん、とセクシーなウィンクをして、ダンディレオンはそんなことを言う。わたしは酔いで判断力がゆるゆるになってしまっていて、彼の誘い文句にぐらついてしまった。
「……本当にいい気分にしてくれる?」
「そりゃあもう。任せておいて」
「じゃあ……お願いしようかな……」
どうせ今日捧げようとしていた純潔だし、心の準備はできていた。その相手が変わっちゃうだけ。普段だったらいやいやそんなわけないでしょって思いとどまってたけど、今日のわたしは酔ってるし、参ってる。
「よしきた。オレに全部任せてればいいからね。たまらない気持ちにさせてあげるから」
そう言って、ダンディレオンはかたちのいい唇をわたしのそれにそっと重ねた。滑り込んできた舌先は、上等な果実酒のいい香りがした。
「……最高の初体験を楽しんでくれよ」
その後はもうあっという間で。わたしはダンディレオンに抱かれて、夜空を一緒に飛ぶような気持ちよさに包まれながらめくるめく初体験を終えた。
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