第二十九話  「空界結界」


クロ達はしっかりと休み、朝を迎えた。昨日まで活気に満ちていた街には、一人も姿がない。レイはクロに話しかける。


「クロ様、ぐっすりと眠れましたか⁈」

「ああ、久しぶりによく眠った。ところでレイ、お前、力が増したか⁈ 昨晩何があった?」

「クマの一族を全て喰らいました」


チロは暴れ出した。


「レイ、何でそんなことしたの!! あんな良い人達だったのに!! 見損なったよ!!」


クロはチロをなだめる。


「よせチロ、レイは悪くない。あの街は少しおかしかった、あれだけ平和だったのに、あの街に能力が劣る者はいなかった、おそらく奴らは常習的に魂を喰らっている」


「ええ、あの街の住民は昼間平和を装い油断させておいて、夜、宿泊者が寝静まったのを見て、狩りを行う、卑劣な輩でした。この手の街は意外と多いもので、夜の内に私が始末しておきました。やはりクロ様は気づいておられましたか⁈」


「ああ、お前なら負けることはないだろうと、ゆっくりさせてもらった、気配を感知しながら、全て消えたころには寝かしてもらった。レイ、お前も休め。今日はカイノに飛ばせる、お前は俺の肩に乗ってじっとしてろ」


その時、山の向こうから一体のワイバーンが飛んでくるのが見えた。


「ワイバーンだと⁈ まずい、ワイバーンなど本来この世界には生息していない、人間が作りだしたハイキメラ種だ。お前ら、早々に始末してここを立ち去るぞ」

「いえ、お待ちください、クロ様!! 人間の配下であるなら、一体で飛んできたりしません。何かありますよ」


ワイバーンは空中で一礼、大翼を地に伏した。


「お待ちしておりました、太陽の意思様。私は今は亡きボーレの配下、ベルフレアと申します。昨晩の戦い、見物させていただいておりました。鴉の王よ、一切の物音を立てない見事な戦いぶり感服したしました」


「ボーレ⁈幸蔵の親か…」


「ええ、私は人間によって作られた実験動物、ハイキメラです。地獄のような日々を過ごしていた所をボーレ様に救っていただきました。彼は、死ぬ寸前の廃棄される総勢500体を買取り、自身で介抱し、育てていました。


多くの同胞はその時に亡くなりましたが、約100体のキメラが生きながらえました。彼は私たちに愛を持って接してくれた、そして、夢を語ってくれました。マルクのもとに行って守ってくれ、とボーレ様には言われておりましたが、同時に幸蔵様のこともとても心配されておられたのを感じ、我らは勝手ながら二手に分かれて行動することを決意しました。


ハイキメラの中でも極めて戦力の高い個体が二十七体おります、うち二十五体は幸蔵様側へ、残二体と中戦力ハイキメラ六十体をマルク様側に回しました」


「お前達も大変だったな。でも、心配するな、幸蔵には俺たちが、マルクにはベレッタがついている」

「ベレッタ様が!! 決心がついたのですね」


「ただ、ベレッタは人間群のスパイもやっているから、このことは内密で頼む。ところでだ、ベルフレア、お前はこの先、誰に従属されることを選ぶ⁈」

「勿論、幸蔵様です。我らはその時まで従属を持たないと決めております。ですが……」


「空の勢力はあまりにも強者揃いか…」

「はい、ここは標高5400m、かなり高い分類に入りますが、この空はまだまだ甘い、空は標高6000mを超えたあたりから全く次元の異なる世界となります。私も一度、6000m付近の山から上空を偵察してみましたが、単独で攻め入るのは到底無理だと断念した所存です」


「ああ、俺もそこが盲点だった。きっと、今の俺たちでも進めるのは7500mまでだろう。8000m級には手が出せん」

「幸蔵様はいらっしゃるのですか⁈」


クロは遠くを見て頷いた。


「ああ、アイツは天界を目指している。幸蔵にも鴉がついているが、アイツだけじゃどうにもならない。お前も加わってやれ」

「それは勿論なのですが、クロ様、空攻略にはもう一点問題があります。結界です。

6000m 7000m 8000m 10000m単位で上空結界が張られています、結界はその領域の主要国により張られ、国王による解除、若しくは国王を始末することでしか解除できません。結界を破壊しても、上空より更なる強者が援軍に来るため、その国王相手に体力を削がれる程度の実力では、その場で援軍に排除されてしまいます」


「ベルフレアはその主要国に案内しろ、レイ、俺と共に戦略を立て、期に備えるぞ」

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