第十一話  「脱畜」



「レイ様、同胞すべての魂……吸収完了です」


黒髪の長髪、華奢な体に大きな瞳――端正な顔立ちの女性。その肩には、4羽を持つ小さな鴉が止まっていた。


「そろそろ主の元へ参りましょう。報告すべきことが、いくつかありますので。

太陽の使徒様は……そう遠くありません、現在の我らなら、20分もあれば辿り着けるかと」


レイは、約2000億羽の魂を吸収し、今や鴉族の王に君臨していた。


「……失ったはずの右目に、違和感がありますね。戒めとして残しておきましたが、魂を吸収した今なら――再生、可能かもしれません」


レイは眼帯を外し、静かに右手を添える。目をゆっくりと開けると、瞳には異質な光が宿っていた。


「ヒナタ、こちらへ。……あなた、相当な数を喰らっていますね。ざっと――400億羽」

「えっ……なぜそれを⁈ その右目の力ですか?」

「ええ。この目は、魂の強度を視ることに特化しているようです。戦力分析用の力ですね」


 


一方、クロとチロは――前日に使った技の訓練中だった。


「ちがうよクロ! もっとこう、カクッとズバーッといくんだよ!!」


チロが全力のジェスチャーと謎語彙で指導している。


「こうして、キュルキュルって回して――ズドーンッ!!

おお、できた!チロ、このキュルキュル、昨日はできなかったのに、今日できる!」


(いやいや、普通にヤバいな……俺が食らったら、マジで死ぬレベルかもしれん)


そこへ、タイミングよく、レイが合流する。


「ただいま戻りました。クロ様、チロ様。……特訓中のようですね」

「レイか! 無事で何よりだ!見てくれ、――お前の技、何故か使えるようになっててな」

「それは……私の黒炎ですね。しかし、制御に苦戦されているご様子」

「ああ、制御できない。心当たりあるか?」

「おそらく、クロ様と私の力差です。私は2000億羽を吸収し、ヒナタ・タガラを配下に迎えました。彼らもまた、数百億の魂を持つ鴉たちです」

「……そりゃあ、出世したな。てことはチロ、お前も俺より格上ってことになるのか。一応、主人公なんだけどな、虚しくなってきたぞ」


チロがテクテク歩いてきた。


「レイ、おかえり〜! チロいま、クロを育ててるところなんだよ!」

(育ててる……だと……⁈ いつの間にそんなポジションに……笑)


レイは真顔で言った。


「クロ様、その力――おそらく、ガイアの特殊能力かと。従属関係だけで、他者の技が使える例は存在しません」

「やはり、そうか」

「力を扱うには、クロ様ご自身が強くなる必要があります。配下を増やして従属力を上げるもよし、敵を吸収して強化するもよし」

「ふむ……」

「特訓も必要ですが――少し気になる情報がありまして」


レイが目を細める。


「近々、人間同士の戦争が起こるようなのです」

「人間同士⁈ 奴らは管理家畜だろ。なぜだ?」

「一部、管理外の反抗勢力が存在します。その中の一派が、王国と激突する流れになっているようです」

「名前は?」

「脱畜(だちく)。脱・家畜の意味を込めた組織です」

「……ネーミングセンス、ゼロだな。もうちょい何とかならなかったのか」


 

「ちなみに、その王が――日焼けボディにビキニパンツで森を駆ける変人らしく……『森のフィッシャーマン』という通り名を持っているそうです」

「……もはや全員ノリでやってんな、その組織」

「はい、残念ながら。ですが侮れません。勢力は約2000人。その中にガイアの使徒が5名。対する王国軍は、1万人+使徒2名。しかもその2人は王直属護衛隊という精鋭です」

「ふむ、完全に略奪戦ってわけだな」

「ガイアの使徒は世界中に約500〜600名。この戦争での5名は、戦略的に看過できる数字ではありません」


チロが目をキラキラさせる。


「さっすがレイ〜! チロとクロだけだと、1週間イベントなかったもんね〜

クロ、いこ〜よ、チロ……リア充になりたい!!」


(……またどこでそんな言葉覚えてきたんだよ)


クロは静かに立ち上がる。


「――チロ、レイ、ヒナタ、タガラ。

力を貸してくれ。ガイアの使徒を、俺たちの手で、奪いに行くぞ」

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