第九話  「従属と能力」



その頃――

クロとチロは、森の開かれた小道で人間に絡まれていた。


「兄貴ィ、ノラがいましたぜ!

首輪なしのフリー個体ッスよ!こりゃラッキー、家畜にしちまいましょう!」

「……ああ、珍しい獲物だ。

おい、テキトーに痛めつけてから首輪をつけろ。すぐ従うようになる」

「ヒャッハー!!」


――まるで世紀末のコスプレをしたような山賊風の男たち。

その視線の先には、少年と、相棒のシロクマが立っていた。


「ちょっと聞きたいんだが、ノラってのは何だ?」

「はあ?……マジで知らねえのかよ」


山賊の一人が鼻で笑った。


「ノラってのはな、誰の家畜にもなってねぇ奴のことだ。今の世の中、人間でも獣でも、首輪で管理される。固体番号が振られて、従属コードが刻まれるんだ。それが強制的な従属――これからお前らがなるもんだ。」


 


なるほど。

つまり従属には、強制と自主の2通りがあるってことか。


 「だが、お前らには首輪がついてないようだな。

……なぜだ?」

「へっ、バカだな。俺たちは兄貴に自分の意思でついていってんだよ。

首輪なんざ必要ねぇってことよ」


ふむ、こいつらは自主的な従属というわけか。

クロは山賊のリーダーに目を向けた。


「おい、兄貴とやら。

お前はなぜ、仲間に首輪をつけない?」


その問いに、リーダーはフッと鼻を鳴らし、愉快そうに語り出す。


「いいぜ。これから馬車馬のように働いてもらうお前に、特別講義ってやつだ。


従属には、二種類ある。

一つは強制的従属。これは首輪で縛るやり方だ。これをされた奴は、どんなに強くても親に逆らえなくなる。直接攻撃なんて不可能だ。完全支配ってやつだな。


もう一つが自主的従属。

こっちは、従属者の自由意思でついてくる。だから、親を裏切ることも、殺すことすらできる。普通の親なら、そんな危険を冒してまで首輪なしで飼わねぇよ。だが、首輪をつけないメリットもある。


従属者から得られる従属力――それを100%引き出せるのが、自主的従属なんだよ。


逆に、強制従属だと20%しか引き出せない。能力の受け渡しも同様で、20%が限界だ。リスクはあるが、その分デカい見返りがある。


な? 丁寧に教えてやったろ?

お前が素直に従うなら、首輪なしで飼ってやってもいいぜ?」


 


――ふむふむ。

従属の在り方によって、力の流れそのものが変わるのか。


「……ありがとう。お前らに出会えたことを、感謝するよ。礼として――この場で、一人残らず殺してやる」

「はァ? ノラの分際で、いきがってんじゃねぇ!!」


クロは静かに手を掲げた。


「チロ、そういえば……この前オッサンが言ってたよな。ガイアの意思は太陽に乗っ取られたって」

「うん、チロごはん食べててあんまり聞いてなかったけど、そんなこと言ってた気がする〜」


――ガイアの意思を乗っ取る。

つまり、元々ガイアが保有していた能力が、俺の中に流れ込んでいる可能性がある。

体の奥で何かが疼いてる――試してみるか。


「……こんな感じか?」


クロが念じた瞬間、地面が焼けた。


――黒い焰が暴れ出す。

かつてレイが使っていた黒炎が、クロの掌から放たれていた。


「……ッ、何だこれは……!?

制御が……効かねぇ……!」

「兄貴ィ!! コイツ、マジでやばいですって!!」

「全員撤退!! 走れェッ!!」


山賊たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

クロはふと、空を仰いだ。


「黒翼」


羽が広がる――だが、以前ほど自由に飛べない。感覚が鈍い。どうやらこの力、まだ馴染んでいないらしい。


「……もう一度、いくか」


今度は、手から――白い糸のようなものが伸びた。


「兄貴!! 今度は糸っすよ!!

あいつ、俺らを縛って家畜にしようとしてるんじゃ!?」

「くそがッ……!!」


クロは諦めた。


「制御できないなら、全力で放てばいいだけのことだ」


黒炎か、糸か――どちらが出るかわからない。

けれど、とにかく出す。


「よくわからんが――消し飛べ」


クロの手から放たれたのは、黒炎を纏った無数の直線状の糸だった。それは風を裂き、空気を燃やし、前方500メートルの大地を抉り、貫いた。山賊たちは、黒炎糸に貫かれ、灰となって――風に消えた。


……チロがぽつりと言う。


「怒ってたね」


クロは静かに答えた。


「……だから人間は嫌いなんだ」

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