鼓動の軌跡

文羽ショカ

第1話 高鳴る鼓動と一冊の本

借りた本を無くした。

本の角も肌触りも匂いも全てこの手から抜き取られたように消え去った。

「どうしよう…」

その言葉が頭から離れない。鼓動が高鳴る。目の前にはもう図書室のドアがあるのに足を掴まれたみたいに床の感触も感じられなく鼓動が耳に響く。動けなかった。

その時から教室の笑い声も光も全部遠くにあるように感じた。恐怖と不安が脳内で渦巻いていた。息が詰まり、みんなの視線、全て私を蔑むように見えた。私は怖かった。怖くて怖くてどうしようもなくて毛布に包まった。明日からどんな顔すればいいの、どう生きればいいの。たった一冊の本をなくしただけで、私の人生は大きく傾いてしまった。


それから数年が経つと、本のことは気にしなくなったがその間で崩れたリズムが治るはずもなく恐怖からめんどくさいという気持ちに変わった。いつからか、めんどくさい、つまらないという理由をつけて学校を休むようになった。勉強もせず、昼夜逆転で私の生活は変わってしまった。しかし学校へ行けていない事実、私は申し訳なくなり、夜には心の中で親に謝りながら夜通し泣いた。

「お母さんごめんなさい。悪い子でごめんなさい。学校行けなくてごめんなさい。」

この言葉を思い出すたび涙が込み上げてくる。


小学四年生の遠足、私はかろうじて遠足だけは行こうと参加した。クラスメイトと景色を眺め、写真を撮り、笑い合っていた。しかし水族館で私は迷子になってしまった。柔らかな青い照明が水槽に反射してゆらゆらと動く。魚が静かに泳ぐ中、照らされた私はまたもや恐怖と不安で暗い海の底に迷い込んだ稚魚のように必死にグループを探した。手汗が握る拳に伝わる。まだ遠くには行っていないはず、そう祈りながら水族館を歩き回った。

ようやく見つけた私のグループ。いたいた!と、声をかけようとしたその時、グループの男子から胸に突き刺さる一言が。

「何やってんだよ。」

私はショックで泣きそうだった。「ごめんなさい」という反面、「そんな言い方ないでしょ。」「心配くらいしてよ。」という怒りも混ざってさらに泣きそうになりながらも必死に我慢してとぼとぼとグループの後ろを歩いていた。

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