キセキ語り

コヨミ

第1話 ある日の始まり

チリン、チリンと鈴の音色が聞こえる・・・

どこかで聞いた懐かしい鈴の音色が・・・


音を頼りに一歩、また一歩と足を踏み出す

どこに行くのかわからない真っ暗な闇の中果てのない闇を進み続ける・・・


そしていつものように、目が覚めるーーー


「はっ!・・・またあの夢か・・・」


いつも見る夢、リアルで鮮明に脳裏に残る今でも鈴の音色がどこからか聞こえるように・・・


「灯真ーもう起きましたか?」


「あっ、店長、おはようございます。 今起きました。」


「それならよろしい、今日の午後の買い出しお願いしますね。」


「はい。」


灯真/トウマ と呼ばれた青年は今住み込みでとある喫茶店のアルバイトととして働いている


店長の秦樹/ハタノイツキ は祖父の代から続く喫茶店の二代目店長を務めている


年は二十六とまだ若くアルバイト募集で東京に来て住むところが無い灯真を引き取る形で迎え入れた


灯真は幼い頃両親が他界し、祖父と祖母の三人で暮らしていた、灯真が高校を卒業後、東京に行きたいと祖父母に打ち明け了承してくれた


しかし不運な事に灯真が借りる予定だったボロアパートが火事にあい、住むところが無くなった時に喫茶店のアルバイト募集を見て住むところが無い事を伝え樹が


「それなら、住むところが見つかるまで君をうちに泊めます、宿泊代は給料から少し引かせて貰いますが、いいですか?」


その条件で灯真は樹の家から職場の喫茶店で今日も働いている


「灯真、また例の夢を見たのですか?」


「あ、はい。 いつものあれです、最近頻度が多くて・・・」


「そうですか、無理はせずいつものようにお願いしますね。」


何気ない会話をしつつ二人はリビングダイニングに向かう、コーヒーの香りとバランスの取れた朝食を三人で食べる


「あ、店長おはよう。」


「おはようございます、南。 今日もありがとうございます。」


「ううん、これくらいよゆーだし。 店長は家庭料理は苦手なんだからこれぐらいの分担なら任せてよ。」


「あはは・・・これは手厳しいですね。」


南/ミナミ と呼ばれた少女は樹の祖父の古い知り合いで灯真の四つ年上であり、成人済みなので飲酒も、運転もできる


「灯真、買い出しの内容覚えてる?」


「うん、今度の期間限定メニューの試作品と相場の比較だよね。」


「そう、最近物価が高いから、どこのお店がいいか市場調査するのも大事だからね。」


「南はしっかりしてて偉いですね、僕は喫茶店と自分のことで手一杯ですよ。」


数分後、三人とも身だしなみを整えて、喫茶店に向かう


灯真は祖父から十歳の誕生日に貰った水晶のネックレスを首に掛けて


「紫桜/シオウ、おはよう。 今日もよろしくな。」


ネックレス軽く握りしてめて名前を呼び玄関のドアを開ける


今日も忙しく、楽しい日々が始まるーーー


「いらっしゃいませ!ご注文を伺います!」


「やあ、灯真君!今日も元気だね。 それじゃ紅茶とイチゴショート一つずつ頼むよ。」


「はい、かしこまりました。 紅茶とイチゴショート一つずつお願いします。」


「了解、用意するから待っててー」


灯真は接客態度が良く喫茶店の雰囲気作りに役に立っている、所謂看板息子なのだ


南は厨房担当でメニュー開発から、幅広く業務をこなす、提供も速く丁寧な作りも評判に貢献している


樹はレジ担当で会計をこなし、店の維持費等を計算するので、老舗であるが店内は綺麗に保っている。


この三人だからこそ喫茶店は一年中人の足が絶え間なく聞こえて来る


都内から来る人もいれば、旅行で来た人もいる


もうすぐ午後、昼休憩と灯真の買い出しの時間だ


「灯真、一旦クローズにしておいて。」


「オッケー、昼食べたら買い出し行って来まーす。」


「お願いします。」


昼休憩を済ませ灯真は商店街に向かった、今回作る期間限定メニューの試作と市場調査を兼ねた灯真にとっての大仕事だからだ


「えっと、今回作るのはスパイスカレーだから、スパイス扱っている所を探そう。」


スパイス、スパイスと鼻歌を歌うように楽しく探している、お客さんの笑顔を思い浮かべながら仕事をする


チリン


「え?・・・」


灯真は目を見開き、唖然としていた


あたりを見渡せば、見たことが無い町並み、見慣れない顔、灯真を見て怪訝な顔をする人々


まるで異世界に迷い込んだようなような心境だ


「どこ、ここ・・・そうだスマホ・・・え、そんな・・・」


スマホは圏外になってた、時間は表示されずここから逃げなければと灯真は人波をかき分ける走り続けた


なるべく遠くへ、人気の無いところへ走って、走り続けただがドンッと何かにぶつかる音がした


「あ、ごめんなさい、今急いでいて・・・」


「え?・・・」


それは血だった、流れているのは血だった


腹部にナイフのような物が刺さっていた、だが痛みは無いナイフに麻酔薬でも塗られているようなそんな感覚だ


男がスマホのような物を取り出してこう言った、ターゲットを確保したと


ターゲット?何のことだ?


灯真は体が痺れて動くことができずに倒れ込んでしまった、ここで死ぬのかと頭が恐怖に染まっている


チリン


また鈴の音色が聞こえる、夢の中で聞こえる鈴の音色


どんどん近くに来ているような感じがする


男が灯真を抱えて歩き出したその時ーーー


ー見つけた、やっと見つけたー


誰かの声が聞こえる、聞き覚えが無くても知っている声が・・・


ー今度は離れない、俺が守るからー


誰を守るの?


ー大丈夫だ、安心して、今行くからー


ポツンと雨が降ってきた


雨の気配がしなかったのに、雨が降っている


男は止まらずどこかへ向かっている、でも意識が遠のく中でコツ、コツと誰かがこっちに歩いて来る足音がする・・・


「ーーーーーー」


ほとんど聞こえなかったけどでも、たしかに聞こえた・・・名前を呼んでと、俺の名前を呼んでと


「・・・・・・紫桜」


一瞬だったあたりが眩しい光に包まれ、男は灯真を慌てて落とした


天を見上げるような落下だったが、そっと、誰かが抱き留めた


優しく壊れ物を大事に扱うように・・・


まるで、水のような青に桜と藤が水面に漂うような青い髪の男だとても綺麗で、この世の物とは思えない程の美しい人だ


「ここで待っていて、すぐに片付けるから。」


男はそう言って、手から水でできた刃を取り出した、綺麗で鋭そうな刃だった


美しい人は戦いも美しかった、舞うようにでも急所を外さない鋭さをもって男達を八つ裂きにした・・・


返り血はまるで雨がシャワーのように綺麗に流れて、ゆっくりこちらに向かってくる


武器をしまって優しく両手で抱きかかえられた・・・


灯真は薄れゆく意識の中、あんなに聞こえていた鈴の音色が聞こえなくなったのを感じた、冷たいはずの雨が暖かく、抱えられた腕は冷たくて優しい・・・


ゆっくりと一歩、一歩と歩き出した足音が心地よく、灯真はそのまま意識を失った・・・


失いかけた意識の中美しい男はこう言った気がした


「灯真・・・・・・会えて良かった。」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る