第3章 2回目のやり直し

【処刑7日前】


 再び目を開けたとき、私は王宮の廊下に立っていた。

 朝の光がステンドグラスを透かし、色彩が床に散る。

 洗濯籠を抱え、同僚のマリアが声をかけてくる。


「ミレイ? 何ぼんやりしてるの。王妃様のお部屋、掃除に行くんでしょう?」


 そうだ。前回はこの後、王妃様の部屋に入り、薬庫へ誘導され、毒の現場に閉じ込められた。

 私は洗濯籠をマリアに押し付けた。


「ごめん、急用ができたの。代わりにお願い」


 マリアは首を傾げたが、渋々受け取ってくれる。

 私はその足で庭園へ向かった。

 ──王子が何かを受け取る場面を、この目で確かめるために。


 庭園の噴水近く、金の髪が朝日に輝く。

 エリオット王子だ。

 彼の前には背の高い男──全身を黒い軍服で包んだ近衛隊長、レオン・ヴァルト。


(……あれ? 前回は相手の顔が見えなかったのに)


 王子は彼に何かを渡そうとしている。

 だがその手は空を切った。


「このような不審な物を、私に預ける気か?」


 低く冷えた声。

 王子は軽く笑って引き下がり、私の存在に気付く前に立ち去った。


 ──視線が、刺さる。

 鋭い茶色の瞳が、私を射抜いていた。


「お前、今の会話を聞いていたな」


 全身が硬直する。

 レオン・ヴァルト。王都でも恐れられる近衛隊長だ。

 私は慌てて首を横に振った。


「い、いえ……その……」


「王妃暗殺の件、知っているな」


 胸が跳ねる。

 どうして彼が、その事件のことを──。

 いや、きっと既に情報を掴んでいるのだろう。


「話す気がないなら牢で聞くが」


「ま、待ってください!」


 私は思わず声を張り上げた。

 この人は、前回のループでも事件のとき現場にいた。もし味方にできれば──。


「私は、犯人ではありません。でも……事件の真相を探しています」


 レオンの視線がわずかに揺れる。

 次の瞬間、彼は私の腕を掴み、人目のない回廊へと引きずった。


「……続けろ」


 その瞳は冷たくも、真実を求める色をしていた。

 私は深く息を吸い、知っている限りの情報を話し始めた──「未来の記憶」だと悟られないよう、慎重に言葉を選びながら。

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