第6話 勇者案件

 冒険者ギルドの登録に必要なもの。

 それは、身分証明書。つまり――関所の通行証だ!

 

 アルセの門で親切な旅人に譲ってもらった通行証がさっそく役に立った。

 ありがとう親切な人! 誰か知らないけどこの恩は忘れないよ……

 リオンは見知らぬ旅人に感謝しながら、受付嬢から手渡された自分のギルドカードを見た。

 緑色のカードには、リオンの名前と冒険者ランクFという文字が書かれている。

 リオンは剣士、シルフィードは黒魔導士という肩書だ。

 

 受付では簡単な適性検査を受けた。

 金属で縁どりされた三十センチ四方のガラスの板のような器具で、それを通して対象者を見ると、適職がレーダーチャートとして可視化される。

 対象となる人物の目に見えないエネルギーを、ガラス板の部分で測定して判断しているらしい。

 この器具にはシルフィードがかなり興味を示していて、受付嬢にいろいろ質問していたが、使ってる側も具体的な仕組みはわかっていないようだった。


 リオンは白魔法と剣士職の適性が高かったので、なんとなく剣士を選んだ。

 ちなみに、シルフィードは魔法系全般の適性が高かった。

 

 かくして、リオンとシルフィードの冒険者ライフが始まったのであった。




 ギルドの受付カウンターで冒険者登録を済ませると、ざっくりとした仕組みの説明を受けた。

 冒険者のランクは通常A~Fまで。

 登録するとFランクから始まり、ランクが上がるとAランクに近づいていくシステムだ。

 依頼もA~Fで分類されていて、自分のランクと同じか、ワンランク上まで受注できる。

 つまり今のリオン達は、EランクとFランクの依頼が受注可能となる。


 当然だが、高ランクになるほど依頼の難易度は上がり、報酬も上がる。

 高額報酬の依頼は、昇格しないと受けられない。

 昇格するためには受けた依頼を地道にこなす他、上位ランクの冒険者や、ギルドのお偉方の推薦という手段もあるらしい。 

 シルフィードが「ギルドマスターあたりを幻覚で操って……」とか提案してきたが、リオンは却下した。

 せっかくの冒険だ。ズルをしたら面白くないではないか。


 ちなみに、Aランクの上にSランクという特別枠が存在するが、これは特別な認定を受けた冒険者――例えば勇者などが該当する。


 リオンの脳裏に、勇者エリオネルの顔が浮かぶ。

 あの軽薄そうな男がSランクかー……

 意外と実力はすごいのかもしれない。なんてったって勇者だし。

 そういえば、フレスイードには複数の勇者パーティが攻め込んできていると会議で話題にのぼっていた。

 攻め込まれている魔族側のリオンにとって、印象がよくないのは当然だ。

 

 冒険者で賑わう依頼掲示板前の待機所。その一角で椅子に腰かけたリオンは、憮然としてテーブルに頬杖をついていた。


「っていうか、何であんな依頼受けたんだよ。勇者に味方することになるだろ」

「前金に釣られました」


 不満もあらわに言ったリオンに、シルフィードはあっさりとそう返した。

 シルフィードはリオンの正面に座り、テーブルの上に広げた数枚の紙を読み込んでいる。

 ギルド登録の時にもらった規約のようなもので、びっしりと小さい字で何か書いてある。

 リオンはちらりと見ただけで、読むのを諦めたものだ。

 こういったものを好んで読むのがシルフィードである。


「背に腹は代えられませんよ。私にはリオン様に食事と安全な寝床を提供する義務がありますので」

「オレだって、野宿はいやだけどさ……」

「それに、見てるだけで銀貨三枚というのは破格です。リオン様、ランクFの駆け出し冒険者が受けられる依頼内容見ましたか?」


 シルフィードに言われて、リオンは依頼掲示板を見る。

 低ランクの依頼は掲示板の右側にまとめて貼られていた。


■Fランク

薬草やキノコなどの素材採取

1日 約20~30ルクス(成果に応じて変動)

※レア素材は別途査定の上買取り


■Eランク

極小モンスターの討伐・捕獲

二尾のキツネ・・・ 15ルクス

一角ウサギ・・・・ 10ルクス

棘ネズミ、赤牙リス・・・ 5ルクス 

※その他の小型種やレアモンスターは別途査定の上買取り


(1ルクス=銅貨1枚 銅貨100枚=銀貨1枚)


 その他、家出した猫の捜索や、食堂の皿洗い、ゴミ掃除など、どう見ても街の雑用のような依頼も混ざっている。どれも報酬は低額だった。


「この街の宿の相場が、一泊一部屋当たり50~70ルクスです。つまりFランクやEランクの依頼では、一日働いても宿代すら稼げるかどうかわからない」


 シルフィードの説明を聞きながら、リオンはため息をついた。

 なんとも世知辛い世の中である。


「あれ? 火竜の討伐ってAランクの依頼だよな? オレたちのランクじゃ受けられないんじゃない?」

「今回の討伐クエストはレイド扱いになるので、私たちも入れるんですよ」


 シルフィードは読んでいたギルドの規約の一部分を指差してリオンに見せる。

 そのあたりには、複数人で依頼に参加する場合の取り扱いについて書いてあった。

  

 三人以上のグループはパーティとして登録できる。

 パーティで依頼を受ける場合は、メンバーの平均ランクで受注可能な依頼が判定される。

 パーティメンバーの入れ替えなど、変更があった場合は都度ギルドに申告すること。

 

 さらに、モンスターの群れや、大型モンスターの討伐等で、複数のパーティ、および個人で参加する合同討伐戦をレイドバトルという。

 この場合は、全体を率いる先導者が選出され、その者のランクを加味した総合力で受注可能な依頼が判定される。参加するには、先導者の許可を得た上でギルドに申告すること。


「つまり、私たちが今回参加するのは、Sランク勇者エリオネルが先導するレイドバトルです。彼の許可があればFランクでも参加可能です」


「なるほど」

 

 つまりFランクの駆け出し冒険者が、報酬のいい依頼を受けるには、上位ランクに寄生するしかない。

 それを考えると、今回のレイドバトルは絶好の機会だ。

 キノコ採取や雑魚狩りで一日中外を駆け回ってはした金を得るよりも、上位冒険者の活躍を離れた場所でそっと見守るほうがいいに決まってる。

 そして報酬は銀貨三枚。うーん、ウマい! セコいがウマい!


 リオンの表情が明るくなったのを見て、シルフィードも笑う。


「勇者の味方になるんじゃなくて、利用するんですよ。それに、勇者の情報があれば、魔王様の助けになるかもしれません」

「オレは、別に父上の助けになんて……」

「でも魔王様に負けてほしくはないでしょう?」


 リオンは頷く。

 それ以前に、父上には誰とも戦ってほしくないんだけどな。

 それに、勇者の情報を手に入れても、どうやって父に伝えるというのか。 

 リオンが俯いて考え込んでいると、ふいに声をかけられた。 


「よぉ、新人さんたち」


 リオンが顔を上げると、そこには二人の男の姿があった。

 二人はCランクの冒険者で、魔法使いのラグ、剣士のガルドと名乗った。

 年の頃は三十前後、いかにもギルドの常連という雰囲気だ。

 先刻の勇者とのやりとりを見て、リオン達に興味を持ったらしい。

 二人はリオン達の隣の席に座り、親しげに話しかけてきた。


「あんたら、勇者案件に参加できるとは運がいいなー! 勝ち馬に乗ったも同然じゃないか」

「まあ、ギャラリーとして雇ってくれたみたいですが……」

  

 ラグに言われて、リオンは苦笑いを浮かべた。


「それがいいんじゃねーか。勇者様の戦いなんて、そうそう見れるもんじゃないぜ」


 笑って言ったラグの横で、ガルドが微妙な表情で首をかしげる。


「俺はあのエリオネルって勇者は、なんかうさんくさい気がするなぁ。その点、十八年前の勇者一行はすごかったぜ。強いなんてもんじゃなかった」

「またその話かよ。おまえの思い出補正入ってねぇか?」

 

 ガルドの言葉に、ラグが呆れたように苦笑した。


「あの……十八年前の勇者って?」


 まさかと思いつつリオンが訪ねると、ガルドは嬉しそうに答える。


「あんた若いから、まだ生まれてなかっただろうけど、話ぐらいはきいたことあるだろ? 十八年前に魔族の国フレスイードに乗り込んで、戦争を終わらせた伝説の勇者パーティのことさ」


 (母上たちだ!)


 リオンの胸が高鳴る。


「その勇者パーティに、会ったことあるの?」

「ああ、子供のころにな。俺の村が魔物に襲われた時に、助けてもらったんだ。勇者ウィン、聖女ソフィア、賢者ジール、狂戦士バルゴ……あいつら半端なく強かった。今のSランク冒険者なんか目じゃないぜ」

 

 ガルドは目を輝かせながら、勇者たちの活躍を話してくれた。

 たしかに大げさに盛ってある感じは否めなかったが、母の活躍はリオンにとっても心躍る話だった。

 村を護った勇者たちは、魔王討伐のための旅の途中だったらしい。


「結局ソフィア様が自ら魔族の生贄となったことで、魔王と戦うことなく戦争は終わったが、あのパーティだったら戦っても勝てたと俺は思うぜ」


 ガルドの言葉にリオンはショックを受ける。

 

(生贄!? 人間の国ではそういう設定になってるの!?)


 リオンの父と母は、お互い一目ぼれした末の恋愛結婚だったと聞いている。

 現に、リオンの前でもラブラブ夫婦だった。

 生贄は違う、と言いたかったが、リオンは言葉を飲み込んだ。

 リオンは空気が読める子だった。

 


 

 ラグとガルドは、お金に困っているリオン達のために食料を分けてくれた上、格安の宿屋を紹介してくれた。

 二人一部屋、朝食付きで一泊50ルクス。

 とりあえず銀貨一枚(100ルクス)を使って二日分の宿を確保する。

 残りの20ルクスで食事を摂ったあと、80ルクスを使って、リオンは中古のミドルソードを購入した。

「剣士なのに剣がないなんて、さまにならないでしょう」というシルフィードの意見に従ったのだが、別に見学だけならいらない気もする。

 リオンとシルフィードは宿に入り、明日の初仕事に備えて早めに就寝した。

 備え付けの木製のベッドは硬くてあまり寝心地はよくなかったが、前日からの疲労のせいか、床についた瞬間に睡魔に襲われた。





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【追記 18年前の伝説の勇者と魔王の設定】

https://kakuyomu.jp/users/natu0817/news/822139837277440980

※キャラクターのイラストと設定を載せていますので、興味のある方はご覧ください。

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