第4話 これがあたいの在り方
キャラバン隊の前に躍り出た盗賊たちは獲物を狙う猛獣のように武器をギラつかせ、馬から飛び降りるや否や、待ち構えていた護衛たちと火花散る剣戟を繰り広げた。
「ガキンッ、ガキンッ!」
飢えた獣のような眼差しで己の欲望を剥き出しにする盗賊たちと、キャラバン隊を守るため命を懸ける護衛たちの意地が、あちらこちらで激しく衝突する。
ガキン、ガキン、うおおおおお、ガキン・・・
剣と剣がぶつかる鈍い音。 男たちの咆哮が入り乱れる混沌の中——カミ―アは悠然と歩いていた
片手に剣を携えてはいるが、それを振るうことはない。
ただ、鋭い視線を周囲に走らせるだけで、護衛たちは一瞬たじろぎ、彼女に近づこうとすらしない。
不意にカミ―アは駆け出す。
その鋭い視線の先——荷馬車から略奪品を引きずり出そうとする盗賊に、震える手で剣を振り上げる商人の姿があった。
キィィィンッ!
振り下ろされた商人の剣は、盗賊にあっさり避けられ、剣ではじかれて地面に転がった。
盗賊:「死ねっ。」
商人:「ひっ。」
盗賊の剣が振り下ろされる。
咄嗟に商人は両手を顔の前に掲げ、目をぎゅっと閉じた
ガキンッ!
鋭い金属音が響き渡る。
商人は恐る恐る目を開けると、カミ―アが盗賊の剣を受け止めていた。
カミ―ア:「——でぇあああっ!」
彼女は剣を一閃、盗賊の攻撃を弾き返すと、間髪入れずに蹴り飛ばす。
盗賊:「ぐわっ。」
盗賊の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。
盗賊:「くそがっ……!」
呻きながらも、盗賊はすぐさま立ち上がる——
その背後から、低く響く声が飛んだ。
ブルトス:「おい。」
盗賊が振り返ると、ブルトスがゆっくりと歩み寄ってくる。
ブルトス:「馬鹿野郎。命なんぞいらねぇだよ。ブツだけにしな。」
その言葉と同時に、ブルトスは盗賊の後頭部をはたいた。
盗賊:「へ、へい……すいやせん。」
盗賊は顔を引きつらせながら、すごすごとその場を離れていった。
商人:「あ、ありがとうご——……ひっ!」
礼を言おうとした商人に、カミ―アは無言で剣を突きつける。
カミ―ア:「逃げな。」
その冷ややかな声に、商人は怯えながら、その場から逃げ出していった。
逃げ去る商人と入れ替わるように、ジャンが慌ただしく駆け寄ってきた。
ジャン:「姉さんっ! はぁ、はぁ……アーポットの野郎が、いましたぜ!」
ぜいぜいと息を荒げ、膝に手をついて肩で呼吸するジャン。その顔は汗でぐっしょりと濡れ、よほど急いで駆けつけてきたことが見て取れる。
カミ―ア:「……そうか。やはり、来てたか」
カミーアはぽつりと呟くと、視線を伏せ、静かにうつむいた。その表情には、微かな焦燥と諦めが滲む。
ブルトス:「どうする」
カミーアの顔色をうかがいながら、ブルトスが低く問いかける。
カミ―ア:「…………ワッツに任せるさ」
ふっと息を吐き、カミ―アは顔を上げる。
その視線の先——キャラバン前方では、十人ほどの盗賊団員たちが、一人のエルフによって蹂躙されていた。
カミ―ア:「今は、あいつだよ」
カミーアはそう言うと、迷いなくキャラバン前方に向けて走り出す。
カミ―ア:「……っ」
キャラバンの前方まで駆けつけたカミ―アは、目の前に広がる光景に言葉を失った。 地に伏した盗賊たち、吹き荒れる風のような剣閃——まさに“蹂躙”という言葉がふさわしい惨状だった。
セドウィック:「風塵」
その声とともに、銀髪のエルフが風のように駆け抜ける。 細身の剣がしなやかに舞い、盗賊たちは振り返る間もなく斬り伏せられていく。
盗賊:「ぐあっ……!」
まるで塵のように、次々と崩れ落ちる盗賊たち。 その光景を見つめながら、カミ―アは小さく呟いた。
カミ―ア:「……さすが、あいつの仲間だな。容赦ねぇな。」
地に倒れた盗賊たちの姿が視界に入り、カミ―アの表情がわずかに強張る。 あの男——クリストファーに叩き伏せられた記憶が蘇った。
そのとき、視線を感じた。 カミ―アが顔を上げると、セドウィックがこちらを見ていた。
セドウィック:「お仲間かい? お嬢さん。」
優雅な微笑みを浮かべながら、セドウィックが声をかける。 カミ―アは一瞬だけ表情を引き締め、そして静かに微笑み返した——その直後。
ジャン:「そうだよっ!!」
勢いよく飛び出したジャンが、カミ―アを追い抜き、セドウィックに突っ込んでいく。
セドウィック:「おっと」
軽く身をひねり、セドウィックはおどけたようにジャンの剣をかわす。
その後ろから、ブルトスが駆け寄ってきた。
ブルトス:「アーポットに用があるんだろ?」
目を丸くしているカミ―アに、ブルトスが声をかける。
ブルトス:「顔に出てるぞ。行きな。」
にこりと笑い、ブルトスはジャンの加勢に向かって走り出す。
小さく一つうなづき、カミ―アは踵を返してキャラバンの反対側へと駆け出した。
——カミーアの背が視界から消えた直後、セドウィックが、ふいに声を上げる。
セドウィック:「待ったあ!」
ジャン:ブルトス:「!?」
セドウィックは片手をすっと伸ばし、ジャンとブルトスの前に突き出す。 ジャンは剣を振り上げたまま動きを止め、ブルトスも足を止めた。
セドウィック:「いまの子……レックスに用があるのかい?」
細身の剣を下ろしながら、セドウィックが静かに問いかける。
ジャン:ブルトス:「レックス……?」
二人はそろって怪訝そうに眉をひそめた。
セドウィック:「いまの子に、アーポットに用があるんだろって言ってたよね。」
セドウィックはブルトスに視線を向けながら問いかける。
ブルトス:「俺が言ったのは、クリストファーってやつのことだ。レックスなんてしらねぇよ。」
その答えを聞いて、セドウィックは小さく頷いた。
セドウィック:「なるほどね・・・・あの子、勘違いしてるわけか。」
セドウィックは顎を撫でながら、視線を宙に浮かして独り言のように呟く。
セドウィック:「もうちょい、詳しく聞かせてくれないかな。」
そして、ぽかんと立ち尽くすブルトスとジャンに向かって、セドウィックはにっこりと、微笑んだ。
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