第2章 無法者たちの憂鬱
第1話 回想:破門されたシャルクス
舞い上がる砂塵が視界を曇らせる荒野のど真ん中。巨大な岩々に囲まれたその場所は、まるで世界から切り離されたかのように、静かに、しかし確かに存在していた。
そこは──「プラント盗賊団」の根城。法の届かぬ地に集った無法者たちの最後の楽園。
ギィィ……。
重たい扉が軋む音を立てて開く。その音が、砦の静寂を切り裂いた。
ワッツ:「よぉ、オメェら。」
現れたのは、ワッツ。肩に砂を乗せたまま、無造作に一歩踏み出す。鋭い視線が、部屋の空気を測るように走った。
普段は誰もいないはずの会合部屋。その中央に据えられたテーブルを囲むように、四つの影があった。
テーブルでは、ひょろりとした長身の男と、樽のような体格のドワーフがカードを打ち合っている。どちらも真剣そのものだが、勝っているのはどう見てもドワーフの方だ。
窓際には、漆黒の肌を持つダークエルフの女。腕を組み、壁にもたれながら、冷たい視線を投げかけていた。
そして奥の壁際──パイプをくゆらせる髭面の男が、無言のまま煙を吐いた。目は細められ、何かを見透かすような静けさを湛えている。
シュッ。
空気を切り裂く鋭い音。刹那、ワッツ目掛けて飛来した一枚のカードを、彼は涼しい顔で指二本で挟み止めた。
ワッツ:「いくら、負けてるからって、俺に八つ当たりはよくねぇよ。ハーディッシュ。」
苦言を呈しながらカードを差し出すワッツの横で、ドワーフのグリルドが歯を剝き出して下卑た笑いを漏らす。
グリルド:「シシシシ。」
ハーディッシュ:「うるせぇぞ。グリルド。」
ハーディッシュは乱暴にカードをひったくると、ワッツを睨みつけた。
ハーディッシュ:「まだ、くたばってなかったか。ワッツ。」
ワッツ:「ったりめぇだろ。……それより、頭は?」
ワッツはあたりを見回した。
ハーディッシュ:「見りゃわかるだろ。まだ来てねぇよ。」
ハーディッシュのぶっきらぼうな返答に、ワッツはチッと舌打ちした。
ワッツ:「たく、人を呼びつけといて、呑気なもんだぜ」
その時、部屋の入口から声が響いた。
ロッド:「悪かったな。呑気で」
その場にいた全員が振り返る。
そこには、「プラント盗賊団」の頭、ロッド・プラントが立っていた。
ワッツ:「遅いですぜ、頭ァ」
ワッツが肩をすくめながら皮肉を飛ばす。
ハーディッシュ:「オメェは来たばかりだろ。」
ハーディッシュが即座に突っ込むと、二人の間に火花が散るような空気が走る。
リベリア:「それで、あたいらを呼び出して、何、用だい。ロッド。」
掛け合いを始めるかのようなワッツとハーデッシュを制するように、ダークエルフのリベリアが一歩前に歩み出る。
ロッド:「わざわざ、すまんな。リベリア。今日集まってもらったのは・・・。」
カミーア:「親父いいぃ!」
轟くような怒声が、部屋全体に響き渡る。再び入口に視線が集中すると、そこには息を荒げ、顔を真っ赤にして立ち尽くすカミーアの姿があった。
ロッド:「カミーア。」
ロッドは困惑した表情で、一歩、また一歩と後ずさる。
しかし、カミーアはそんなロッドの様子などお構いなしとばかりに、さらに声を荒げた。
カミ―ア:「なんで、シャルを破門にしたんだああ!!」
カミーアの怒声が部屋中に響き渡る。彼女は荒々しくロッドに詰め寄り、瞳を怒りで燃え上がらせていた。
ロッド:「・・・・・。」
だが、ロッドは重い口を開こうとしない。
カミーア:「答えろよ! 親父!」
沈黙を貫くロッドに、カミーアはさらに食い下がる。その剣幕に、部屋の空気は一瞬にして凍り付いたかのようだった。
ハーディッシュ:「シャル?・・・ああ、あいつのことか。」
ハーディッシュの興味がなさそうにカードを切りながら呟く。
グリルド:「破門、破門。へました。シャルクス。」
グリルドが口元を歪めて笑う。
ワッツ:「・・・・・・。」
ワッツは何も言わず、腕を組んだまま鋭い視線をロッドに向けていた。
ロッドとカミーアは、言葉を交わすことなく睨み合っていた。
沈黙が、まるで刃のように空気を裂いていく。
やがて、ロッドが重たく息を吐いた。
ロッド:「……シャルクスには、やるべきことがあった。だから、行かせたんだ。」
その言葉に、カミーアの怒気がわずかに揺らぐ。
カミーア:「やるべきこと……? なんだよ、それは。」
声はまだ荒いが、どこか不安を含んでいた。
ロッドは目を伏せ、語気を強める。
ロッド:「わからなくてもいい。お前には……関係のないことだ。」
その一言に、カミーアの肩がびくりと震える。
カミーア:「……関係って。あたいは・・・」
絞り出すような声。だが、その瞳はロッドから決して逸らさない。
ロッド:「お前の身勝手さが、彼の時間を奪ってることがわからないのか!」
ロッドの声が鋭く響く。
カミーア:「・・・・・。」
カミーアは言葉を失い、唇を噛みしめる。
その場に、重たい沈黙が落ちる──
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