第10話 バルデンの黄金伝説
シド:「――あの黄金は、ルーク・バルデンがかつて自分が愛した女性の子孫のために残したものなんだよ。」
シドは優しい声で、ゆっくりと語り始めた。しかし、その表情はどこか影を帯びている。
シド:「だけどな、その黄金には呪いがかけられていたんだ。」
シドの低く響く声が、会議室の空気を一瞬にして凍りつかせた。
リーア:「呪いぃぃぃっ!?」
リーアの甲高い叫びが、静寂を切り裂く。全員の視線が、驚きに目を見開く彼女に集中した。
リーア:「……ごめん。進めて。」
リーアは気まずそうに肩をすくめ、小さくなった。
シド:「その黄金に関わった者には、決まって不幸が訪れているんだ。バルデンの一族も、例外じゃねぇ。」
シドの言葉に、シャルクスは黙り込む。胸の奥に、冷たいものが落ちてくる。
――ラスパル家が没落したのも、あの呪いのせいだったのか。
シド:「このままじゃ、黄金を渡そうとしている子孫にまで呪いが及んじまう。だからバルデンは、一計を案じたってわけさ」
クリス:「どうしたんです?」
クリスが興味津々な様子でシドに問いかける。
その場にいる誰もが、シドの語りに耳を傾けていた。
シド:「バルデンが施した策は二つだ。一つは黄金を呪いが祓えるまで、安全なところに預けたことだ。」
ワードック:「なるほどの。それが、アーポット亭というわけじゃな。」
ワードックが顎に手を当てて呟いた。
クリス:「世界一の冒険家が守ってくれるなら、これほど安全な場所はありませんからね。」
クリスが胸を張り、誇らしげに笑みを浮かべる。
シド:「もう一つは、バルデンは二人の弟子に子孫の保護を頼んだんだ。」
シドはふっと笑い、シャルクスに視線を向けた。
シド:「オメェにはその二人が誰なのか、もうわかってんじゃないか。」
シャルクスは目を伏せ、これまでの出来事を思い返す。そして、静かに息を吐いた。
シャルクス:「……父さんとロッドさんか。」
シャルクスは遠い目をして呟く。
シド:「オメェの兄ちゃんは、父親やバルデンの意思を受け継いで、黄金に群がる欲望や呪いと戦っていたんだろ。」
シャルクス:「・・・ああ。そうかもな。」
シド:「だけど、どこかで限界を感じていた。」
シドの言葉は、静かに、しかし確実に響く。
シャルクス:「・・・・」
シャルクスは顔を伏せ、拳を握る。
シド:「だから、クリストファーに相談したんだ。同じバルデンの意思を継ぐ者としてな。」
シャルクス:「それじゃあ、これまでのことは・・・。」
シャルクスは顔を上げ、驚きと戸惑いが入り混じった瞳でシドを見つめる。
シド:「そうだ。これは、試練だよ。オメェがバルデンの意思を受け継ぎ、戦えるかどうかの試練だ。」
シャルクス:「・・・・そうだったんだ。」
シャルクスは再び顔を伏せる。
シャルクス:「俺は合格したのか。」
シャルクスの問いかけに、シドは微笑んで答える。
シド:「だから、ここにいるんだろ。」
シドはシャルクスの腕を軽くたたいた。
クリス:「でも、まだ試練は終わってないよ。」
クリスが柔らかな笑みを浮かべながら、シャルクスに歩み寄る。
シャルクス:「えっ。」
シャルクスは眉を顰める。
クリス:「黄金を届けなきゃいけない人がいるんだろ。」
シャルクス:「ああ、そうだな。」
シャルクスは静かに頷く。
クリス:「誰に届ければいいか、分かっているね」
クリスの問いかけに、シャルクスは微笑んで答えた。
シャルクス:「ああ、カミ―アだ。」
クリス:「カミ―ア?」
クリスが聞き返したその時だった。
ワードック:「そこ、何をしておる!」
ワードックの怒号が響き渡ると同時に、彼の手に握られた戦斧が豪快な弧を描いて天井へと投げつけられた。
ズガァン!
耳をつんざくような音と共に、戦斧は天井を易々と突き破り、その向こうに潜んでいた暗殺者の一人を寸分違わず串刺しにした。
天井にぽっかりと開いた大穴から、リーアが蝶のように軽やかに舞い上がり、天井裏へとその身を躍らせる。
リーア:「はーい♪」
満面の笑みで手を振る彼女に、暗殺者は一瞬、動きを止めた。
その隙を逃さず——
グサッ。
リーアの短剣が、動揺した暗殺者の胸元に突き刺さる。男は声も出せずに崩れ落ちた。
リーア:「さて、次は……」
リーアは、まだ暗殺者の骸に突き刺さったままのワードックの戦斧に目を向けた。迷いなく柄を掴み、一気に引き抜く。鈍い金属音が、天井裏の静寂を破った。
バリーン!
突然、窓ガラスが派手に割れ、別の暗殺者が会議室へと飛び込んできた。
リーア:「あと三人。」
リーアは天井の縁から顔を覗かせ、手にした戦斧をひょいと投げ落とす。
リーア:「ワードック、お願い!」
ワードック:「すぐに終わる。」
ワードックは落ちてきた戦斧を空中でキャッチし、そのまま跳躍。窓から侵入してきた暗殺者を一閃で斬り伏せる。
そして、くるりと向きを変え、出入り口へと向かう。
扉が開いた瞬間、二人の暗殺者がなだれ込んできたが——
ズバッ! ズバッ!
ワードックの斧が唸りを上げ、二人はあっという間に床へ沈んだ。
シャルクス:「なんだ、こいつらは……」
シャルクスが倒れた暗殺者たちを見下ろしながら、低くつぶやく。
ミアラ:「なんか、表が騒がしいよ。」
ミアラが壊れた窓から外を覗き込み、眉をひそめる。
クリス:「行ってみましょう。」
クリスの一言で、六人はアーポット亭の外へと足を踏み出した。
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