甘い紅茶にブランデー
珍しくテレビを見ていた彼女が言った。
「こういうの、見に行きたいと思う?」
画面には観光客に人気だというイルミネーション。何やらクリスマスの夜景をランキング形式で紹介する番組らしい。映像は去年のもののようだ。
彼女の方はどうしたいんだろう、と思いつつ答えた。
「私は別にどっちでもいいかな。綺麗だとは思うけど、寒いし、人も多いだろうし……」
私もそうだけど、彼女は人混みが好きじゃない。それに、私以上に寒さが苦手だ。本人は何故か「寒くない!」と強がるけど、風邪を引かせたくはない。何より、外はどうしても人目が気になる。デートスポットなら尚更だ。
「結局は家に居るのが一番じゃない?」
言って、彼女の隣に擦り寄るように座った。ここなら誰も見ていない。好きなだけくっつけるし存分にいちゃいちゃできる。
「でも綺麗なもの好きでしょ」
「うーん。外だとべたべたできないからヤダ。部屋の中から見られるなら良いけど」
急に、彼女がスッと立ち上がった。
「あ、逃げた。居なくなると寒いんだけど」
くっつく口実とばかりに、部屋の温度をほんの少し低めにしているのはわざとである。まあ、節約のためでもあるけれど。厚着をすれば凌げる温度。薄着でいたいなら、人肌で暖を取ればいい。
「お茶淹れるだけだよ。冬だし、紅茶にブランデーを少し……なんて、どう?」
「最ッ高」
流石、私の好きなものをよく知っている。
「ちゃんと甘くしてよ?」
「それくらい自分でしなさい」
説教っぽい口調で呆れたように言いながら、それでも砂糖もスプーンも私の手元まで運んでくれる。ならばブランデーの瓶は私が持ってこよう。彼女は私を甘やかすし、私は彼女を甘やかす。私たちはそういう関係だ。
熱い紅茶に角砂糖を三個。ブランデーは目分量だけど、大さじ一杯くらいか。しばらく前に購入した少しお高いお酒は、小瓶なのにたまにしか飲まないせいでなかなか減らない。
動きにくいくらいにぴったりくっついて、二人でお茶を飲む。テレビでは綺麗だけど寒そうな景色について、誰かが何か喋っている。
甘ったるくていい香りがして、温かくて、ふわりと酔ってしまいそう。紅茶はもちろんだけど、彼女自身が私にとってそういう存在。
そんな彼女にわざわざイルミネーションを見るために寒い思いをさせるなんて。その上、手を繋ぐのもままならないのだから、外に出るのは気が進まない。
「美味しい」
私より角砂糖ひとつ分甘さを控えた彼女が満足そうにほうっと息を吐く。
その横顔を見るのに忙しい私は、もうテレビなんてどうでも良かった。
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