残飯
宮世 漱一
食前酒
昔から母の作る料理はとても不味かった。それでも食べなければ母が酷く悲しむから無理に口に放り込んだ。昔からそうだ。そのせいなのか、次第に美味しさの感覚も麻痺してきたように感じる。
高いものを、質の良いものを味わず感じずとも食べれる人になりたかった。
母親が精神を崩してから、父親は突然消えた。
母親だけでは生きられないからと、母の弟にあたる叔父が来た。
これが六歳のときだった。
叔父さんが母に「一度気休めに外に行っておいでよ」と言ったことがある。その時母は「迷惑をかけるから」と断った。その当時、どうしてあの状態の母を一人で放とうとしたのかとても疑問に思った。叔父さんの顔は変わらず、声も淡々としていたから尚更だった。
母の味を知る叔父さんが出前をこっそり頼んで僕に食べさせたかったのか、母をそのまま見殺しにしたかったのか。
母は少なからず僕を愛していた。
必ず手の込んだ料理を毎日すかさず出してくれていたし、よく皿を投げつけたり手を出してくるだけで、それ以外の時は優しい人だった。不味い料理はセンスがないだけで、愛が籠っていたし、その他のことは愛情が少しズレただけだと僕は信じている。
そしてしばらく三人生活を送っていた。
しかし父親はその五年後くらいに、ふた周りくらい離れた愛人を連れて帰ってきた。
その間父はどこに行っていたのか。愛人の家か、ネットカフェに居座っていたのか、色々な場所を転々としていたか。
そのせいで母は完全に壊れた。
叔父さんは僕を襖に押し込んで、必死に二人をなだめていた。隙間から現状を除くことも出来た。しかし、声でさえキツイのに、その光景を肉眼で受け止めようとすることは出来なかった。しばらくして、襖から出た時、部屋がとんでもない事になっていたから、母の発狂も相まって、母は相当荒れてしまったんだと悟った。
その後の僕は父方の実家で暮らすことになった。
母の両親はどちらとも亡くなっている為、そんな結果になった。叔父さんはというと、収入も安定してないし、僕を養える金がないからと、引き取ることはしなかった。叔母は家族がいる身のため、姉家族の事など眼中に無いのだろう。
母はその後精神病棟で入院、父はまたどこかへ消えた。
そして僕の新しい生活が始まった。
父方の祖父母はとても温厚で優しい人だ。昔からよく避難させてもらっていたからよく知っている。だから僕は安心した。母の手料理が味わえないと思うと少し寂しいが、僕はそれどころじゃないのだ。
なぜあの父を止めないのか、その性格からだと思ったのだが、祖父と一緒に風呂へ入った今日、体の痣が物語っていた。
あの環境の下でも、学校には一応通えていた。六年間過ごしたあの学校元を離れて、数ヶ月を別の土地で過ごすのは寂しいと思った。仲の良い友達もそこそこ居たし、個々で馴染める保証もなかったから、不安な積もっていた。
その心配を他所目に、その時僕は衝撃と同情を受けた。
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