尋問

 ダークは、鞭を持つ男たちのうち、最も体格の良い男に視線を向ける。男たちのリーダー格だ。


「まず確認するが、メリッサが俺の女という話は誰から聞いた? 複数人いるなら全員答えろ」


「東部地方からの遣いです。あとは旅人や詩人です」


「東部地方からの遣い……シルバーの部下か?」


 ダークの問いかけに、男は頷いた。

「合言葉で確かめましたし、シルバー様の部下で間違いないかと」

「シルバーは何を考えてんだか」

 ダークは溜め息を吐いた。

 男は続ける。

「ダーク様はいつか浮気をするとも言われました」

 他の男たちが口々に言う。

「俺は一人の女じゃ満足できず、ハーレムを作っていると聞いたぞ」

「ああ、男女問わず付き合っているらしいな」

「たしかメリッサはハーレムの新入りだよな」

 男たちの言葉を聞きながら、ダークのこめかみは怒張していた。


「あの女……しばく必要があるな」


 メリッサは戸惑った。

 どうして自分がダークの女とかハーレムの新入りとか噂されるのか理解できないし、シルバーがどんな人間か分からない。

 しかし、シルバーがしばかれるのは可哀想だと思った。

「そ、そんなに怒る事ですか? 要するにモテモテという事ですよね」

 メリッサの口調は上ずっていた。

 ダークは半笑いと憐みの視線を浮かべる。

「本気で言っているなら、ある意味ですごいぜ」

「す、すみません。不愉快でしたか?」

「いや、てめぇもデマに巻き込まれているのにすげぇなと思ったんだ。てめぇのおかげで少し冷静になれたぜ」

 ダークはエリックに視線を向ける。

「嘘偽りの情報を流されると、軍部が致命傷を負う危険があるぜ。情報をなんでも鵜吞みにしないように、しっかり指導しておけ」

「シルバーの部下を信用するなという事か?」

 エリックが淡々とした口調で尋ねると、ダークはポリポリと頭をかいた。


「難しい所だが、部下たちが間違った情報をそのまま地方担当者に報告した上に、地方担当者も真に受けるのは問題だな」


「他の判断材料を得るように努力しろという事か」


「そういう事だ。相変わらず理解が早くて助かるぜ」


 ダークは口の端を上げた。

「ついでにサンライト王国の跡地を見に行くつもりだ。敵対勢力の溜まり場になっていないか確認したいからな。いいな?」

「ああ、問題ない。瓦礫しかないけどな」

 エリックは無表情で頷いた。

 メリッサは周囲を見渡した。

 見るからに疲弊している人々が、無理やり資源の採取や掘削作業をやっている。

 メリッサは恐る恐る尋ねる。


「あの……また気分を害したらすみませんが……彼らを休ませる事はできませんか?」


「黙れ。俺の方針が不満なら南部地方から出ていけ」


 エリックの瞳に殺意が宿る。

「あんたは邪魔だ。二度と俺に話しかけるな」

 メリッサの両肩が恐怖で震える。

 殺意を向けられながら、話しかけるなと言われてしまうと、何も言えなくなる。

 ダークは苦笑する。

「おいおい、随分と乱暴な物言いだな。てめぇらしくないぜ」

「その女は俺の方針に逆らおうとしている。排除するべきだ」

「メリッサの言いたい事は多少理解できるぜ。今の奴隷の働かせ方じゃ、生産性が落ちるだろ。リベリオン帝国の利益になるとは思えないぜ」

 ダークが諭すように言うが、エリックはこれ見よがしに溜め息を吐いた。

「リベリオン帝国の生産性なんてどうでもいい。ローズ・マリオネットは日頃やりたいようにやれる権利がある。その権利を行使しているだけだ」

「奴隷たち、もっと言えばサンライト王国の住民たちを痛めつけるのが、てめぇのやりたい事か」

「それ以外に何がある?」

 エリックの紫色の瞳がぎらつく。

「俺の方針に不満があるのなら、あんたでも容赦しない」

「てめぇのやり方に逆らうつもりはないぜ。どういう方針か知りたかっただけだ」

 ダークはニヤついていた。

「俺だって、殺したいほどムカつく連中はいるしな」

「……ダーク、ちょっといいですか?」

 メリッサがおずおずと口を開く。

「エリック様に話しかけられないので、あくまでダークに確認したい事があります」

「なんだ?」

 ダークは両目を白黒させていた。

 メリッサはためらった。

 本当に言っていいのか分からない内容だからだ。

 しかし、エリックはメリッサと秘密を持ちたくないと言われている。

 メリッサは意を決して話す。


「エリック様がサンライト王国の住民を痛めつけたい理由は、もしかして、大切な人が殺されて……それが心の傷になっているのではありませんか?」


「そりゃ……ありえねぇ話じゃねぇが……」


 ダークは眉をひそめた。なぜメリッサが口に出したのか、理解しかねているのだろう。

 エリックは両目を見開いていた。

「なんであんたがそれを知っている?」

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