第8話「板挟みの日本」
プロローグ
アデン湾、HMS ヴァンガード。
「これが『海賊に奪われた』ことになってる船か」
アメリカ軍特殊部隊の隊長がつぶやいた。
甲板には偽装した「ソマリア海賊」たちが配置されている。
もちろん、全員CIAの工作員だった。
「さあ、日本よ。君たちの選択はいかに」
三重の嘘
首相官邸、作戦本部。
「国民には何と説明するんです?」
官房長官が混乱していた。
「簡単だ」
アメリカ特使が指示した。
「国内には『研究素材を奪われた』と言え」
「国際社会には『核兵器奪還作戦』と言え」
「アメリカには『標的はどこですか?』と聞け」
「簡単だろう?」
国民への大嘘
NNKニュースX。
「HMS ヴァンガード、ソマリア海賊に拿捕される」
キャスターが深刻な表情で報じた。
「2000億円の貴重な研究素材が奪われました」
街頭インタビュー。
「ひどいですね、海賊なんて」
「研究が台無しじゃないですか」
「政府は何をしてるんだ」
国民は完全に騙されていた。
国際社会への建前
国連本部、安保理緊急会議。
「テロリストの手に核兵器が渡った」
日本代表が悲痛な表情で訴えた。
「国際社会の支援をお願いします」
各国代表が同情的に頷いた。
「日本は被害国だ」
「すぐに多国籍軍を派遣しよう」
「核兵器を奪還せねば」
完璧な演技だった。
アメリカとの密約
その夜、首相官邸地下。
「標的を決めてもらおう」
アメリカ特使が世界地図を広げた。
「え?標的?」
「奪還作戦の際、誤って発射されるかもしれない」
首相が青ざめた。
「でも、それは…」
「事故だ。海賊が操作を誤った」
「そんな…」
「君たちに責任はない。被害者なんだから」
候補地選定
「候補はいくつかある」
特使が地図に印をつけた。
「北朝鮮の核施設」
「イランの濃縮施設」
「中国の南シナ海人工島」
「どれがお好み?」
外務大臣が震え声で言った。
「どれも戦争になりますよ…」
「戦争?いいえ、事故です」
特使が薄笑いを浮かべた。
英国からの横槍
そこへ英国大使が飛び込んできた。
「ちょっと待ってくれ!」
「HMS ヴァンガードは英国籍だ!」
「使用許可なしに発射はできない!」
アメリカ特使が振り返った。
「では、英国も共犯ということで」
「共犯って…」
「核兵器売却の責任は重いからな」
英国も逃げられなくなった。
三国同盟の復活
「結局、三国で責任を分担するしかない」
首相がため息をついた。
「日本は『被害国』として同情を集める」
「アメリカは『正義の味方』として作戦指揮」
「英国は『技術提供国』として協力」
「皆で渡れば怖くない、か」
官房長官が苦笑した。
「戦前の三国同盟みたいですね」
各国の思惑
一方、他の国々も動いていた。
「フランス:軍需産業の売り込み絶好機」
「ドイツ:EU主導権確立のチャンス」
「ロシア:アフリカ進出の足がかり」
「中国:『平和的解決』を主張して道徳的優位に」
「韓国:日本批判から海賊批判にシフト」
誰も平和など望んでいなかった。
作戦開始前夜
アデン湾、多国籍軍司令船。
「明日、HMS ヴァンガード奪還作戦を開始」
アメリカ軍司令官が各国代表に説明した。
「海賊は抵抗するだろう」
「その際、核兵器が誤爆する可能性がある」
「標的は…北朝鮮核施設に決定」
「事故として処理する」
各国が暗黙の了解で頷いた。
最後の良心
その夜、HMS ヴァンガード艦内。
田中教授が一人残されていた。
「本当に核兵器が使われるのか…」
「しかも『事故』として」
「これが2000億円の研究の成果か」
格納庫の核弾頭を見つめながら、つぶやいた。
「科学者として、人間として、これでいいのか」
しかし、もう誰にも止められなかった。
エピローグ
ホワイトハウス、戦況室。
「すべて予定通りだ」
大統領が満足そうに言った。
「日本は完全に我々の道具になった」
「英国も共犯者」
「他の国々も利益に群がっている」
「明日、核兵器が実際に使用される」
「広島と長崎以来の“実効的核使用”だ。しかも今回は——英国製で」
歴史の皮肉は、英国が最も語りたくない形で完成しようとしていた。
次回「偶発のスイッチ」
「間違って押したスイッチほど、世界を変えるものはない。」
ついに運命の日!
HMS ヴァンガード、最後の航海!
この物語はフィクションです。三重の嘘は日常茶飯事です。
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