第20話 破天荒
「みーぎっ! ひだりっ! もー! 根が邪魔で走りづらい!」
ミルキィの光に導かれるセラの足取りは迷いはない。しかし、それでも靄は視界を悪くし、根と苔が足を取る。
運動神経の良さで転げそうになる体を前へ前へと送りセラはなんとか道しるべの終端にたどり着いた。
しかし、ぐるりと見回してもスカーフはどこにもない。
「ここ、ミルキィ?」
「んなぁあ」
「上?? うわぁ」
クイクイと上を示すミルキィの白い尾につられ視線をあげれば遥か頭上、身の丈の何十倍もの高さの古木の枝に括りつけら揺れる赤いスカーフを見つけた。
「たっかいなぁ……どうしよっか、ミルキィ」
「んなっなっ」
「急げ? うーん、ま、速さ勝負だし行くしかないか! ミルキィ足場よろしく! 風よ、支えて! ウィンドフロート!」
後ろを気にしたように振り向きながらミルキィが鳴きセラを急かす。
セラは体に風を纏うと真上に身の丈の数倍の高さまで飛び上がった。
そのままでは地に落ちてしまうのだが、ミルキィが光で形成された薄い足場を作り出し、セラは足をかけどんどんと高度を稼いだ。そこまで頑丈ではないのか使い捨ての足場はセラが踏むたびに砕けてしまう。
風の浮力で体重を支えて軽業師のように最小限の足場を上へ上へと渡っていった。
少し間違えれば落下してしまいそうで、ハラハラものなのだがセラは恐れを知らないようにどんどんと足場を継いでいった。
あと数段でスカーフに手が届く。セラが「よし」と笑みを見せた時だ。
「ケェエエエエン」と甲高い鳴き声が響いた。
「うぞ!! 追っついてきた! ていうかティタちゃん飛んでる!?」
背後というか真下。一気に飛び上がってくる大鷲と化したフフと共に迫るティタの姿にセラも驚きを隠せない。
「セラちゃん! 負けません!!」
「こっちこそお!!」
爆発的な加速で急上昇し肉薄するフフとティタ。追い付かれまいと光の足場を跳ねるセラ。
セラの手がスカーフを掠める寸前、風が吹き上げる。フフの羽ばたきがスカーフを激しくはためかせ、すんでのところでセラの手をスカーフは逃れていく。そのわずかな間隙にティタはフフの足から飛び出した。
「とっっったあああ! フフ!! お願い!!」
枝からスカーフをもぎ取り、ティタは真っ逆さまに落下していく。
その体を急降下したフフがしっかりと掴む。互いの信頼が無くては絶対に出来ないとんでもない離れ業だった。
「うっそおおおお! やられた!」
逆転された。慌てて降下するにもティタほどは早く降りられないセラはヤキモキする。
そうしている間にもフフは飛び去ってしまうかと思われた。
だが、不意にフフの羽ばたきが鈍り、纏っていた風の翼がほどけるように消え去ってしまう。ティタは危うく宙に投げ出されそうになったが風を纏うことで柔らかく着地した。
「そんな?! 魔力切れ……!」
まだ年若いフフでは魔力量が足りず長時間の変身を保てなかったのだ。
「頑張ったね……あとは私が頑張るから!」脱力し申し訳なさそうに頭を垂れるフフを優しく抱きしめ、ティタは一度、まだ降りてくる途中のセラを振り向くと、キっと前を向き魔力で風を纏い直し自分の足で駆け出した。
▽
まだ勝機はある。着地したセラはすぐさまティタを追い始めた。
距離は開いてしまったが、見たところフフは魔力切れを起こしたらしい。ティタはここからは独力で森を駆けることになる。
「ミルキィ、まだいけるよね!」
「んなっ!」
ミルキィは気合のこもった鳴き声と共に光の道しるべを出現させる。この先にはティタがいるに違いない。
さらに邪魔な根を飛び越えさせるようにミルキィは光の足場まで出現させた。
出し惜しみは無しということだろう。とはいえ、ミルキィも腕比べが始まってから魔法を使いどおしである。
あまり余裕はないはずだ。
「見えた……!」
ティタの背中を視界にとらえたセラは追いすがろうと力を振り絞る。
単純な運動能力はどうやらセラの方が上らしい。距離が縮まっていく。
けれど、目前にはもう開始地点で待つカペラの姿も見え始めていた。
ミルキィもまた度重なる魔法の行使で魔力が切れセラの肩にひっかかるようにしてくっついていた。
「こうなったら! 水よ! 撃て! ウォーターバレット!」
セラは水の塊をティタの背に放つ。少しでも足を止める。いざとなれば手段を選ばない強かさをセラは持っていた。
しかし、ティタの背に迫る水塊は、当たる寸前に風の塊に阻まれる。抱きかかえられている間に魔力のわずかに戻ったフフが撃ち落としたのだ。さらにフフは立て続けに風の塊をセラに向けて撃ち込んできた。
「こっの! やっるなあ!」
負けじと叫び、ギリギリで風の塊を避けながらセラは追いすがる。
しかし、もう十歩もいかないうちにティタの手はカペラに届きそうであった。
ティタの勝ち。スカーフを受け取るために構えたカペラ、そして勝敗を見守っていたフラはそう確信した。
しかし、ここで諦めるセラではないことをシュネールナとテオは良く知っていた。
良く知っていたのだが、まさかの手段にその場の全員が度肝を抜かれた。
「ぬりゃあああああああ!! ミルキィイイイ!!」
裂ぱくの気合と共にあろうことかセラは……頼れる相棒ミルキィを思い切り投げたのだ。
「んなああああああああああ!!」
果たして猫は空を飛ぶのか? 飛んでいるのだから飛んでいるのだ。
フフすらもそんな馬鹿なと反応が遅れミルキィはまんまとティタの頭上を追い抜いた。
クリンと猫らしい体裁きで翻りミルキィの肉球がティタの額を蹴飛ばし「あいたっ」と可愛らしい悲鳴があがる。
ティタの伸ばした腕からスカーフを咥え奪い去るとミルキィは追い付いたセラの懐に飛び込んだ。
「ナイス、ミルキィ!! はい! カペラさん!」
「あ……えっと。しょ、勝者セラちゃん!」
ミルキィごとスカーフを押し付けられ、わっと驚きながらもカペラは勝者の宣言をした。
「勝ったああああ!! やったね、ミルキィ!」
「んなぁあぁ」
飛び跳ねながらセラはミルキィを撫でまわしていた。
猫使いが荒いご主人だとばかりにあきれ顔でミルキィはされるがままにされていたがその尾はどんなもんだとばかりに揺れている。
ティタもまたあまりにもな結末に負けた悔しさよりもおかしさがこみ上げてきてしまい、「あとちょっとだったのにいいい!!」と叫びながらもこらえきれずに笑いだしてしまう。
こうしてティタ対セラの腕比べは僅差でセラの勝利と相成ったのだった。
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