第18話 腕比べ

 剣呑な気配にテオがシュネールナとフラの間に立ち塞がった。わずか遅れその隣にセラも立つ。

 ティタは少し怯んだが姉の前に飛び出した。


 一触即発。いまにも飛び掛かってきそうなフラにしかし、シュネールナは動じない。むしろあっけらかんと笑い飛ばすようにフラに向け言葉を放つ。


「なるほど。フラ、君はテオとセラを認められないわけだ」

「……はい」

「だけど私は君との飲み比べに勝ったはずだけどね?」

「はい……ですが! 儀礼を受けるのはあなたではない」

「なるほどなるほど! たしかに、セラは一杯で音を上げたし、テオにいたっては参加すらしていない。そんな奴は到底認められない! そういうのだね?」

「はい……! 女の後ろで情けなくひぃひぃ言ってるような男、認めるわけにはいきません」

「つまり、なにか君に認められるようなことを彼らが為せばよいのだね?」

「はい! ん……あれ?」


 意地でも認めない、そのつもりでシュネールナにつっかかったフラはいつのまにか方向性が変えられていることに首を傾げた。シュネールナは半ば強引に、そして巧みにフラを誘導していったのだ。

 フラが言い返せぬうちにシュネールナはさらに畳みかける。


「よろしい。オル、テオとセラに腕比べをさせたい。構わないかい?」

「うむ、構いませぬぞ」


 腕を組み、したり顔で頷くオルもまた仕掛け人の一人である。

 シュネールナとオルはフラが納得していないことはとっくに承知でこの展開は予想していた。

 むしろフラが言い出さなければオルが腕比べを提案する心づもりでさえあった。


「ではこうしようかの。ティタはセラと、フラはテオと。それぞれ競い合うのじゃ。 それで勝てばよし、負ければ儀礼は受けさせない。フラ、ティタ、テオ、セラ。皆それでよいな?」


 オルは若者たちを見回し、有無をいわさぬ気配でもって提案をした。

 声音こそ落ち着いていたが、逆らうことを許さないような重たい響きがあった。

 オルの貫禄にシュネールナは満足げに頷いている。


「腕比べ……ですか?」「ティタちゃんと戦うの?」

 ティタ、セラは困惑したように目をぱちくりとさせる。


「……いいでしょう。こんな男に儀礼は受けさせません」

「う……」

 テオはフラの射貫くような目に思わずたじろぐことになる。


「とはいえだ、フラとテオはともかくさすがにティタやセラに決闘させるわけにもいかないか……カペラ、何か案はないかい?」

「そうですね……」


 シュネールナの「決闘」発言にテオが「うぇ?!」と呻いたが大人たちはどんどんと話を進めてしまう。


「ではこういうのはどうでしょう? このスカーフ、これをオル様が森のどこかに隠し、セラちゃんティタちゃんはそれを探す。先に見つけて持ち帰った方の勝ち……というのは」

「いいね。どうだいオル?」

「2人とも使い魔を従えておりますでな。探すのは使い魔にさせて構わないが持ち帰るのはあくまで人ということにいたしましょう」


 カペラは腕に巻いていた真っ赤なスカーフをほどくと、そんな提案をした。シュネールナもオルも妙案だと賛成する。


「ティタ、セラはそれでいいかい?」

「宝探しってことですね! 楽しそう!」

「はい……そういう競い合いなら」

「よろしい。テオとフラは……フラの方はすっかりやる気のようだね」

「うぅ……シュネールナさぁん」

「腹をくくりたまえ、テオ。男の子だろう?」


 フラは無言で槍の柄を突き立てテオを睨みつけた。

「絶対に負かしてやる」そんな気迫のこもった視線を正面から受けテオは弱音を吐きそうになる。


「ま、殺し合いをさせる訳にもいかぬでな。双方、得物の刃にはしっかりと布を巻くとしよう。首から上を狙うのも禁止じゃ。それとフラ、祖霊の力を借りるのもなしじゃぞ」

「承知しています。それに……必要ありません」


 そうして急遽、セラ対ティタの宝探し。テオ対フラの一騎打ちの腕比べをすることが決定した


 ▽


「では改めて腕比べの決め事を。ティタちゃん、セラちゃん。まずオル様が隠したスカーフを互いの使い魔に探してもらいます。お二人は使い魔が戻ってくるまでは待機。戻ってきた使い魔の案内でスカーフを回収しに向かってください。よろしいですね?」

「はい!」

「大丈夫です」

「スカーフの回収は使い魔ではなく必ず人が行うこと。これはオル様が見張っていますから不正はすぐにわかります。そうして先にスカーフを回収し私に手渡した方が勝者となります。ある程度の妨害は構いませんが大けがを負わせるようなことは避けていただければと思います。お二人なら大丈夫だとは思いますが念のため」

「はい! 任せてください!」

「頑張ります」

「シュネールナ様が調合した獣除けを焚いたので大型の獣は遠ざけれたかと思いますが常に気は張っておいてください。森は決して安全ではありませんから」


 森の深淵に場所を移し、カペラより腕比べの決め事を説明されたティタとセラは互いの使い魔によく言い聞かせる。


「ミルキィ、いい? わかった? スカーフはとってきちゃだめだよ。ミルキィは賢いから頼りにしてるね」

「フフ。慣れてる浅い森とは違うから、気を付けて飛ぶのよ。フフのほうがずっと速いから、焦らないで」


 猫と鷲、互いに違う使い魔。取るべき戦略は違うだろう。

 勝機は信頼する使い魔たちの働きにかかっている。


「では準備はいいですね?」

「「はい!」」

「では腕比べ……開始!!」


 まずはティタ対セラ、加えて使い魔のフフ対ミルキィ。

 2対2の腕比べの火蓋は切って落とされた。



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