第2話 レッツハロウィン!

 ドゥーワのハロウィンも仮装するお祭りなので、2人共普段はしない衣装を身に着けます。彼女達が選んだのは可愛らしいメイド衣装でした。ネムのお母さんがハロウィン用に買ってくれたのです。

 先に着替え終わったネムは、さきの部屋の前で彼女を待っていました。ただ着替えただけではインパクトが弱いので、ウィッグを付けて普段の黒髪ショートから金髪ふわふわヘアにしています。


「まだ~?」

「出来たよ~」


 着替え終わったさきは勢いよくドアを開け、その姿をネムに見せました。衣装こそ同じものですが、獣人の集まるイベントに参加すると言う事で彼女なりの仮装も追加されています。

 コスプレをしたさきを見たネムは、その変化に思わずつぶやきました。


「何その猫耳……」

「へへ、これで今日はネムと同じだよー!」


 猫耳カチューシャをつけたさきはニコニコと嬉しそうに笑います。猫獣人のネムはそんなお手軽仮装を見て口をとがらせました。


「真似るなら尻尾も込みじゃない? 耳だけ?」

「いいじゃない。雰囲気雰囲気!」


 猫獣人は猫耳と尻尾と肉球が特徴です。なのにさきは猫耳だけで猫獣人のコスだと得意げに言い切っていました。ネムのツッコミにもどこ吹く風です。

 ただ、ハロウィンの仮装は楽しむためのもの。本格的に凝っている必要はありません。なので、ネムも楽しそうにしているさきの笑顔を大事にする事にしました。


「ま、いいか。じゃ、行こ!」


 ネムはさきの手を繋ぐと、2人仲良く玄関に向かいます。それを目にした弟のルクもすぐに一緒に行きたいと駄々をこねました。こうなる事は想定内だったので、ネムは事前にしていた計画を実行に移します。


「おかーさん、弟を頼むね」

「2人だけで遊びたいんでしょ? ルクは私に任せて行ってらっしゃい」

「おねーのケチー!」


 頬を膨らまして手足をバタバタさせるルクを母親に任せ、2人は家を出ます。街の雰囲気もハロウィンに合わせてお祭りっぽい雰囲気でした。凝った飾りつけをして華やかな家々を眺めながら目的地へと向かいます。

 さきは期待と不安で胸が膨らんで、一緒に歩いている友人に視線を向けました。


「何だか緊張しちゃうよ」

「大丈夫だって。あたいも一緒だから」

「穴の先が私の本当の世界なら、お別れだね……」


 さきは楽しいこの世界を離れる事を考えて言葉をつまらせます。人間の世界に戻ると言う事は、ネム達と別れると言う事。それを実感したさきは、目に涙が溜まっていきました。

 今にも泣きそうな友達の顔を見て、ネムは笑顔を見せます。


「行き来出来るならまたいつでも会えるよ。寂しくないよ。また会えばいいんだから」

「そだね。絶対会いに行くから」


 こうして2人は励まし合いながら会場に向かいました。辿り着いたのは街の中央にあるイベント会場です。月に一回くらいの割合で様々なイベントが開催されているそこは、2人が着いた頃には既に多くの仮装した人達で盛り上がっていました。


 初めて参加したさきはキラキラと目を輝かせます。今回で2回目の参加のネムもまた、自分達だけで来たのが初めてなのもあって、さき以上に興奮していました。


「盛り上がってる~!」

「うわ~、すごい人がいっぱい。屋台とかステージもあるんだね」

「色々イベントがあるみたいだよ」

「次元の穴はどこだろ?」


 さきは会場をキョロキョロと見渡します。けれど、どれだけ顔を動かしてもそれっぽいものは見当たりませんでした。ネムは入口で渡されたパンフレットを開いて読み始めます。


「えっと、穴は夜になってからだって。まずは楽しもうよ」

「やったー! じゃあ屋台に行こうよ。美味しそうだよ」


 こうして、2人は次元の穴が開くまでイベントを楽しむ事にしました。屋台で売っている食べ物を食べたり、ゲームをしたり、ステージ上で開催されているライブとかを鑑賞したり。

 会場の賑やかで楽しい雰囲気もあって、2人は夢中になって遊びました。



 楽しい時間はあっと言う間に過ぎて、段々周りが暗くなってきます。やがて、会場に設置された照明もつきました。暗闇の中で人工的に照らされたイベント広場の雰囲気が、健全なものから怪しげな気配に侵食されていきます。

 子供には少し強い刺激にさきが少し戸惑っていると、中学生くらいの狼男コスの狼少年が近付いてきました。


「へぇ、コス似合ってんね」

「あ、ドモ……」

「暇してんなら一緒に遊ぶ?」


 地元では交流のないちょいワル風の年上少年からの誘いに、さきはどうしていいか分からずに固まってしまいます。屋台の焼きとうもろこしを買ってきたネムは、この光景を目にしてすぐに助け舟を出しました。


「ナンパお断りです! さき、行くよ!」

「あ、うん」


 2人は手を繋いでダッシュでその場を離脱。少年が追ってこないのを確認して一息つきました。お互いに顔を見合わせて「あははは」と笑い合います。そうして、ネムは買ってきた焼きとうもろこしのひとつをさきに手渡しました。


「はい、これさきの分。さっきはビックリしたね」

「ありがと。知らない人に話しかけられたの初めてだよ。ん、美味しい」

「こう言うイベントだもん、ナンパ目的の人もいるって。でもあたいらみたいのに話しかけてくるのがいるとは思わなかった」

「ねー」


 落ち着いた後、さきは改めて会場を見渡します。すると、ナンパ目的の少年が手当たり次第に女子に声をかけて玉砕していたり、友達同士来て楽しんでいたり、1人で自由に会場内を歩き回っている人がいたりと、過ごし方がそれぞれ違っているのに気付きました。


「みんな楽しみ方はそれぞれだねえ」

「そりゃそうでしょ。みんな遊びに来てるんだもん」

「でも良かったよ。全然騒ぎになってなくて。この仮装で正解だった」

「気付いた人はいるかもだけど、その人もそう言うコスプレだって思ってんじゃないかな」


 こうして心配の種もなくなった頃、ついに次元の穴が開きました。その先に行くのが目的だった人達が次々に入っていきます。さき達も当然のようにその列に並びました。


「緊張するね。穴の先はどんな世界なんだろう……」

「ハロウィンはここからが本番だよ。楽しもっ!」


 ハロウィンの夜の日限定で出現する次元の穴でドゥーワと繋がっているのは人間界。ドゥーワの獣人達もその事は十分理解していて、怪しまれない振る舞いをしっかり理解しています。それはパンフレットにも記載されているので、次元の穴通過初参加の2人もしっかり熟読しました。


「向こうに着いたら「トリックオアトリート」って話しかけるんだって。そうしたらお菓子をもらえるみたい」

「ふむふむ。嬉しい呪文だね。覚えたよ。使うの楽しみ」

「沢山お菓子もらおうね」

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