第23話 勇者様へのお届け物
コンコンとユーがいる部屋のドアをノックした。僕達は角部屋だったからこの部屋で間違いないだろう。
「はーい!」
部屋の中からくぐもったユーの声が聞こえた。
「あの、アズマです」
部屋の中にそう声を掛ければ、部屋の扉が勢いよく開いた。
「折角だし、中に入って話さない?」
ユーはそう言って僕の手首を掴むと返事を聞かずに部屋へと連れ込んだ。それに続くように、係長も入ってくる。中に入ると、部屋のつくりは僕達の部屋とほとんど同じ。ただ、旅立つための荷物で部屋の半分近くが埋まってしまっている。きっと窓側のベッドに腰かけている例の大男が全部運ぶことになる気がする。
ユーは僕達を椅子に座らせると、部屋に置かれていた紅茶を淹れて出してくれた。
「実は、勇者として魔王を討伐しに行くことになったんだ。何百年も倒されてないから誰にも期待されてないんだけどね」
ユーは苦笑しながらも勇者選抜について語ってくれた。勇者選抜の大変だったところとか、教会からの嫌味とか。勇者にやさしくない世界なんてなんだか嫌な感じだ。
「そうだ、アズマ達の魔王研究はどこまで進んだの?」
ユーがふと思い出したかのようにそう切り出した。そして僕はさも今思い出したかのように装って、バッグの中からユーのために作成した資料を取り出した。
「あはは、ユーに渡したいものがあって部屋に訪れたのに忘れてたっけ」
そして、この資料について軽く解説する。
「何百年も昔に、この地で魔王を研究していた人物がいたという情報が僕達の国にあってね。彼が遺した拠点を調査してたんだ」
そして、まずはユーに2つの真実を伝える。魔王を殺した者が魔王になること。そして、その要因の一つが協会による勇者の洗脳であるがおそらくユーは受けていないこと。ユーは驚きつつも納得したような表情を浮かべた。
「成程な……。そうだとしたら、なおさら魔王を殺さないと」
ユーのその一言に、大男が疑問の声を上げた。
「あ、兄貴一体何を言って」
「そんなの決まってるだろ。魔王を苦しみから解放するのが、勇者として俺がやらなくちゃならないことだ。それに、俺は洗脳を受けていない、本気で魔王を倒したいと思っている勇者だ。仮に魔王になったとしても、魔王史上初の人間寄りの魔王だって狙えるかもしれないし」
まぁ、ヴェスティも人間寄りの魔王ではあるが。けれど、起こすアクションは異なるんだろうな。ヴェスティは老衰で死ぬために人との関りを完全に断った。果たしてユーが仮にヴェスティを倒して魔王になったらどうなるんだろう。彼自身が言ったように、共生できるのか。それとも……。
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