第17話 それとこれとは話が別

 ヴェスティからの手紙を読み終わった。僕は言葉が出なかった。この「観測」では、きっと会えないとは思うが、ヴェスティが本当にこの世界に存在しているのだと強く感じたからだ。


 街を再現した遊園地とかもあるから、あの街での気持ちはそういった場所にいるような気持ちのほうが大きかったのだと思う。


 僕は一旦その手紙を持ってリビングのような空間へと戻る。皆はそれぞれ様々な場所を探しているみたいだ。


「あの、ヴェスティがここを出ていくときに残した手紙を見つけました。どうやら、彼自身の意思で家を隠したみたいです」


 皆が集まってくる。


「流石だね、アズマ君」


「本当に運がいいわね、あんた」


「ヴェスティさんがこのような手紙を残しているとは……」


「偽物の可能性も視野に入れるべきじゃないか?」


 そして、顔を寄せ合って読み始めた。彼らが読み終わったのを確認してから、僕はヴェルスに反論する。


「偽物ということはないんじゃないかな。そもそも、この世界の人はデグルから魔王が変わったとは気づいていないみたいだし。それに、勇者が魔王になるという情報も教会が弾圧しちゃうから広まっていないしね」


 すると、ヴェスティは確かにそうだと頷いた。


「確かにアズマの言うとおりだ。ヴェスティしか知りえない情報があまりにも多すぎた」


 すると、係長が手紙を眺めながら軽く手を挙げる。


「ねぇ、アズマ君」


「どうしました?」


「アズマ君はヴェスティに会いたい?」


 何故そのようなことを聞くのだろう。


「会いたい気持ちはやまやまですが、転生した編集者が勇者側に立つのか魔王側に立つのか分からない以上ヴェスティへの接触は避けるべきかと。それに、ヴェスティにはきっとユーが洗脳されていない勇者であると分かるはずです。今まで何人もの勇者を見てきたはずですから」


 彼に会いたいのはやまやまだが、僕達は仕事の任務で来ているのだ。その辺は弁えなければならないと思う。いくら係長にそそのかされたとしても。


「ほんっとうにミストは試すのが好きね」


 アルタ姉さんが係長を軽く小突く。なんだ、試されていたのか。


「酷いですね、係長。僕に向かって『紫色のアネモネが相応しい』なんて言っておいて」


 実は気になって調べていたのだ、紫色のアネモネの花言葉を。「あなたを信じて待つ」という意味らしい。まぁ、その僕を信じている主体が係長だとは思わないけれど。おそらく、まだ会ったことがない、僕を神援者に推薦した神様のことなんだろう。


「あっはは、ごめんって。何て言ったらいいのかな。アズマ君を試せば試すほど、安心感を感じちゃうんだよ。いい人材を確保できたなぁって」


 つまり、自己満足のために僕を試していたということか。性格が悪いな、係長は。


「ともかく、これをユーに渡すかどうかを話し合いたくて持ってきたんです」


 僕は強引に話を戻す。


「確かに。この手紙の情報があれば、洗脳を受けない勇者であるユーさんはヴェスティとの対話が叶うかもしれません」


「ユーのことは信じたいが、もしも、『なら魔王討伐の旅に出る必要がない』と思ってしまったらどうなるかも考えるべきだ。ヴェスティの老衰で死にたいという願いはある意味叶うかもしれない。だが、それだと作者の望むエンディングにならない可能性もあるんだよな……」


 僕達は悩みに悩んだ。

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