第7話 路地裏でのエンカウント

 街に入った僕達は、二手に別れることになった。肉体が未成年の僕は酒場に入れないからだ。実際の年齢が成年になっても体の年齢が優先されるとのこと。


 酒場は情報が集まる地であるため、情報集めには欠かせない。だから係長とアルタ姉さんが向かうことになった。僕達は宿屋の予約と地図の購入を任された。睡眠が必要ないとしても、怪しまれないために宿に泊まり、夜を過ごすのだそう。


 寝るわけではないから、2,3人用の部屋を取ってくれればいいとのこと。部屋に入るときは「相棒」達には武器形態もしくは動物形態になってもらうことで誤魔化すとのことだ。特に、アルタ姉さんは女性一人であるため怪しまれないようにしないと。だから予約も僕一人で行わなければいけない。


「あそこの宿屋とかどうかな。寝ない僕たちにとって街の喧騒は気にしなくてもいいだろうし、門に近いほうが行動に有利な気がする」


 僕はそう言って「相棒」達に聞いた。


「いや、あっちの方がいいんじゃないか?」


 ヴェルスはそう言って頑丈そうな宿屋の方を指し示した。旅するお忍び貴族だかが泊まりそうな高級宿屋な気がしてならない。


「僕達にそんなお金ないと思うけど……」


 そもそも一銭も持っていないのに。


「お金の心配はいりませんよ。特に今回はミストさんがいますからね。貴重な宝石でも生成して売れば、お金は手に入りますし、一度手に入れてしまえば魔法で生成することもできますからね」


 なんてチート能力。感情が犠牲になるかもしれないというのによくそんなことができるな。


「取り敢えず行こうか。いったん路地に行くから、そこで武器形態になってもらってもいいかな?武器形態なら指示してもらえるし、僕も安心できるから」


 生前もホテルの予約すらしたことないんだから、不安でしかない。


「私達も安心できます」


 僕達は人通りの少なそうな路地を選び、リアスとヴェルスに武器形態をとってもらう。若干ターゲットマークが気になるかもしれないけれど、不安には変えられない。


 銃を腰に取り付けたホルダーにはめて路地から出ようとした瞬間、脳内にヴェルスの声が響いた。


 <アズマ、急いで路地から出ろ!>


 しかし、間に合わなかった。背後から足を引っかけられ転びそうになったところ、足首を掴まれ逆さにつられてしまう。とっさに銃へと手を伸ばすも、しっかりと握る前に取り上げられ、遠くへ飛ばされてしまう。


 つるされているのと怒りとで頭に血が上って非常に不快だ。吐き気もするし、意識も徐々に霧がかかってくる。


 <アズマさん、まだ私が残っています。敵の急所を見て、ホルダーに装着したまま引き金を引いてください。ロックしなくても精度は落ちるもののなんとかなるので!ヴェルス、その隙に>


 <あぁ、分かってる>


 初めてこの二人が協力する場面に出くわしたわけだが、僕にはそんなことを気にしている余裕はなかった。死んでも生き返るとはいえ、死ぬのは嫌だ。


「おいっ……!」


 ホルダーへと手を伸ばすのに気づかれないため、気を引く。僕がにらみつけた顔には大きな傷跡が走っており、軽い恐怖を覚えるが、相手に視線を外されないよう、精一杯にらみつけた。演劇部で鍛えた悪役の視線だ。口角も上げ、挑戦的な微笑みを浮かべる。


 視線を外さないままそっと手を伸ばし、引き金を引いた。


 男の額にエネルギー弾が当たる。決して威力は高くないが、僕の足首から手を放す程度の痛みには襲われたらしい。僕は手を先に着いたため頭への衝撃は免れたが、きちんとした受け身を取ることが出来ず、全身に痛みが走る。


 なんとか上半身を起き上がらせることはできたものの、先程頭に血が上っていた影響でふらついてしまい、まともに立つことが出来ない。それでも、ヴェルスが後ろから襲ってきた男を羽交い絞めにする姿を確認することが出来た。そしてリアスが縄を使って男を捕らえた。


 すると、誰かがこの路地に入ってくる足音が聞こえた。この男の仲間だろうか。僕は唾をのみ込むことしかできなかった。


「あれ、君は……この前俺と人を襲わないって約束したんじゃなかった?」


 その華奢で小柄な男は僕達に目をくれず、縛られた男の前にしゃがみ込む。


「やっぱり街は苦手だな。……で、君達は大丈夫?特にそこで座り込んじゃってる君」


 男と視線が合った。キラキラとした、純粋な瞳。僕の心は告げた。彼こそが教会の洗脳を必要としなかった純粋な勇者だと。

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