【完結しました】社長、アタシを育成ゲームのキャラ扱いするのは良いけど、気まぐれにファーストキスを奪おうとするのはやめてください!
音雪香林
第1話 キャバ嬢、億ションを狙う。
世の人間の中に愛は確実に存在する。
大きく分類すれば恋愛、親子愛、友愛があるだろう。
どれも尊いとされている。
それはそうかもしれない。
でもそんな尊い愛も、金の前には膝を折る。
反論もあるだろうが、少なくともアタシはそう思ってる。
何故かって?
小さい頃から散々「亡くなったあなたのお父さんが私の運命の人だった。あの人以外の男と結婚する気なんてないわ」って語ってた母さんが、アタシが高校生の頃にお金持ちのひひじじいと再婚したから。
母さんは、女手一つでアタシを育てるのに疲れていた。
働いても苦しい生活が、ひひじじいと再婚することですべて解決するのなら、そりゃ再婚する。当たり前のことだ。
貧乏な状態では愛なんて何の役にも立たない。
世の中、金だ!
だから。
「裸でパラパラ踊ったら億ション買ってやるよ」
そんな客の言葉にアタシは飛びついた。
キャバクラの常連客になれる男なんていうのは、老いも若きも金を唸るほど持ってる金持ちだ。
一晩で百万使うこともあるような、底辺キャバ嬢のアタシとは別世界に住む人間。
「本当?」
「ホントホント」
身を乗り出して尋ねるアタシに軽く頷く客に、アタシは座っていた丸椅子から立ち上がった。
背中にあるドレスのチャックを一気におろしてストンと下に落とす。
いきなり下着姿になったアタシに、焚きつけていた客も他のキャバ嬢たちもぎょっとする。
裸って指定だったから下着も脱ぐべきだろうとブラジャーのホックに手をかけたところで、すっ飛んできた黒服がドレスを拾い上げ、それをアタシの体に巻き付けた。
「邪魔しないでよ」
「するわ馬鹿! お客様方、失礼いたしました。こいつは奥にしまっておくので!」
ずるずるとすごい力でバックヤードに引っ張り込まれた。
「ちょっと、アタシの億ション!」
買ってもらった後に売却すれば大金が手に入ったのに!
買い与えた奴は文句を言うだろうけど、もらったものはアタシのものだ。
気持ちを無碍にする?
キャバ嬢に与える億ションだぞ、持ってるのは気持ちじゃなくて性欲だろう。
そんなもん無碍にしてなんぼ。
くそくらえだ。
「ありゃ冗談だ。本気に取るな」
そんなことはわかっている。
だが、金持ちというのは見栄のある人種だ。
いったん約束したことを反故にはしない。
冗談からの言葉だったにせよ、出した条件をクリアした人間がいたらきちんと億ションを買ったことだろう。
「お前なぁ、キャバ嬢なら奇抜なプレイじゃなくて指名をバンバン取って自力で億ション買えるくらい稼いでみせろよ。ナンバーワンは実際億ションとまではいかんだろうがそれに近いとこに住んでるぜ」
黒服の台詞に「うぐぅ」とうなる。
今年の四月、高校を卒業しても就職先が決まらなかったので入ったキャバクラ。
若い女だし、ニコニコ笑ってれば楽勝でしょなんて舐めてた時期もあった。
だが、現実はそう甘くない。
露出度は売り上げに比例すると聞いて、胸も背中も開いたドレスを着ているのに、ちっとも指名が増えない。
まあ胸を開いたところでアタシには双丘と呼ばれるような盛り上がりはない。
絶壁だ。
背も小柄な方が好まれるのに百七十センチもある。
十センチあるヒールを履いているので立ち上がるとアタシの方が客より背が高いことが多い。
たぶんそんな体格のせいで「可愛げがない」「色気がない」と思われているのだろう。
でも背丈も胸も自分じゃどうしようもない。
ヒールを履かなければまだマシなのかもしれないが、ぺたんこの靴でキャバ嬢御用達のドレスを着用すると違和感があるのだ。
どうしろっていうんだ。
「とにかく、一時間くらいここで反省してろ。その間少しでも売り上げる方法考えておくんだな」
黒服がバックヤードから出ていき、アタシはため息を吐く。
まったく、先行きが不安だ。
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