幻影都市の錬金術師
神凪 浩
第一部 錬金術学院の密室老死事件
プロローグ
古き大陸エレジア。
偽りの英雄たちがもたらした戦乱が終わり、エレジア王国に若き宰相が誕生してから、数年の月日が流れた。
大陸を蝕んでいた「世界の病」は癒え、各種族は、互いに手を取り合い、新しい時代の秩序を模索し始めていた。
そんな大陸の北西、人の踏み入れぬ広大な「囁きの森」を抜けた、霧深き海の上に、その都市は存在する。
幻影都市アストラルム。
地図にも完全な形で記されることのない、独立都市国家。
その存在は、一部の商人や、知識を求める錬金術師たちの間で、おとぎ話のように語り継がれているだけだった。
都市は、一年を通して、魔法的な霧と、それ自体が結界となっている無数の幻影によって、外界からその姿を隠している。
空を飛ぶ竜でさえ、その正確な位置を捉えることは困難だという。
この物語は、そんな、世界の真実から、そして、エレジア大陸の歴史の大きなうねりからも、隔絶されたかのように見えた、謎多き都市で起きた、一つの奇妙な事件から、その幕を開ける。
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