第87話 【百層・3】


 話を聞いて予想通りというか、俺の住む世界とは違う世界の住人だった。

 剣士家系の生まれで、幼少期から剣術を習っていた。

 10歳の頃、自分の主となる姫と出会い騎士学校へと入学したと聞いた。


「質問です! アルスさんは生まれた時から強い訳じゃなかったんですか?」


 これまでは話が通じないから、敬語なんて使ってなかったが説明をしてくれる事になったので俺は口調を変えてそう尋ねた。


「凡人だったよ。特別な能力も無ければ、神様からの加護がある訳でもないただの人だったね。まあ、だけど18歳を迎えた日に私の日常は変化したんだけどね」


「んっ? 18歳って……」


「そう。私も一君と同じ【無限迷宮】を授かったんだ」


 18歳の誕生日を迎えた日、アルスさんは俺と同じく【無限迷宮】を授かった。

 俺と違う点で言えば、アルスさんの世界は元からステータスがある世界で特殊技能は突然現れる能力と知られていた。

 アルスさんは【無限迷宮】を手にしてから、いつでも訓練が出来る環境を手に入れ死に物狂いで訓練を続けた。


「最初は簡単の難易度で始めたんだ。ある程度、剣術は使えたけど一番難しい難易度の魔物を見て無理だと判断したんだ」


「そうなんですか? 意外とやれば戦えたと思いますよ?」


「……え? もしかして、一君は最初から一番難しい難易度を選んだのかい!?」


「そうですね。ずっと一番難しいの難易度でやってますね」


 アルスさんが驚いて聞いて来たので、俺はそう自分がどう迷宮を攻略して来たのか教えた。


「最初の階層からそんな無茶をするなんて、歴代の【無限迷宮】のスキル保持者でも一君だけだと思うよ」


「歴代って、アルスさん以外にも【無限迷宮】のスキル保持者は居たんですか?」


「そんな沢山は居なかったけど、居るよ」


 アルスさんは思い出しながらそう言い、あまり詳しくは話せないと言われた。

 【無限迷宮】は特殊技能の中でも更に特殊な能力な為、秘密を知るには迷宮を攻略するしかないと言われた。


「そうなんですね。ちなみにずっと疑問に思ってたんですけど、アルスさんってどういう存在なんですか? 【無限迷宮】を持っていたって事ですけど、もしかして俺が死んだらアルスさんみたいにスキルに取り込まれたりするんですか?」


「それは無いよ。私がここに居るのは、私の願いで居るんだ」


「願いって、さっきの継承の話ですか?」


 そう俺が聞くと、アルスさんの雰囲気が少し暗くなった。


「生前、私は主に使える騎士だった。【無限迷宮】で鍛え、主の為に戦い続けていたが主を守り切れなくてね。それから私は放浪するようになって、自分は何のために生きていくのか考え続けたんだ。主も弟子も仲間も失って、最後に残されたのはこれまで積み上げて来た私の力だけだった」


 アルスさんはそう言うと、剣を抜いて剣先を俺に向けた。


「賭けだった。迷宮の世界で私は願い続けたんだ。もしも、次にこの能力を授かった者が現れたらその者に力を授けたいとね」


「それでアルスさんは迷宮に取り込まれたんですか?」


「自分の意思だったけどね。それから私は迷宮の一部となり、スキルを授かる者を待っていたんだ……一君、私の力を継承してくれないかな?」


「……大層な目標は俺は持ってませんが、それでもアルスさんが良いと言うなら貰いますよ」


 正直、俺は誰かに仕えたりしてる身分ではない。

 強いて言うなら、瑠衣や東雲家は守っていきたいとは思ってるが、アルスさんの思いには負けているだろう。

 だから俺は、変に取り繕う事無く正直にアルスさんに言った。


「大丈夫だよ。ただ私の生きた証を時代も世界も超えて、力を受け継いでもらいたいただの我儘だからね。悪人でも聖人でも誰でも良かったけど、一君は良い人そうで良かったよ」


 アルスさんはそう言うと、姿が半透明となり光の粒子へと変わるとその光の粒は俺に吸い込まれていった。


「アルスさん……いえ、師匠。今までありがとうございました」


 俺はアルスさんが居た場所に向かって、涙を少し流しながら〝師匠〟と呼んだ。

 その後、俺はボス部屋から出て待機部屋へと戻って来た。


「……感動的な最後だった筈なんですけど、何でアルスさんがここに居るんですか?」


 待機部屋に戻ってきた俺は、訓練場の方から音が聞こえて向かうとそこには先程別れた筈のアルスさんが居た。


「さっき言ったでしょ、力を受け継ぐって? ただ渡して終わりだと、力を完全に受け継げたとは言えないから教える為に居るんだよ」


「流した涙返してくれませんか?」


 笑ってるアルスさんに向かって俺はそう言ったが、これからはちゃんとした師匠として教えて貰える事に期待していた。


「ちなみにアルスさんって、何かしら制限とかあるんですか?」


「そうだね。自由に部屋の行き来は出来ないかな? 一君の許可が無いと訓練場からは出られないし、迷宮の一部だから外には出られないね」


 そう聞いた俺は、取り合えず寝室以外の部屋の出入りの許可をアルスさんに出した。


「へ~、一君の待機部屋はこんな風になってるんだ。私の時とはかなり違うね」


「やっぱりその世界に合わせて作られてるんですかね?」


「多分、そうだと思うよ。私の時、こんな木で出来た風呂とかは無かったからね。こっちのはトイレかな? 凄い仕組みだね。これは一君の世界では普通なのかな?」


 自分の生きていた世界と色々と違う為、アルスさんは色んな所に興味をもち俺に色々と聞いて来た。

 俺はそんなアルスさんに対し、待機部屋を案内して周って訓練場へと戻って来た。

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