第14話 あそぶ。わからない、です……

 まずはポータブル電源とソーラーパネルの設置だ。


 屋根裏部屋を経由して、屋根の上にソーラーパネルを設置する。地震や風で落ちたりしないようにしっかり固定して、接続端子部が雨で濡れたりしないよう保護しておく。


 ソーラーパネルがネットで見た印象より随分大きかったのもあって、結構労力のいる作業だったが、その労力の果てにある恩恵を考えれば苦じゃない。アルフィーレも手伝ってくれたしね。


 もっとも、アルフィーレはこれがなんの作業なのか理解できず、小首を傾げていたけれど。


 しかし前に来たときは結構寒かったけど、今回は大したことないな。って、そうか。異世界だともう前回から1ヶ月近く経ってるからか。一気に春が近づいてきたんだなぁ。


 設置を終えたら、延長ケーブルで、おれの寝室に置いたポータブル電源に接続。充電状況を確認すると……。


「うん、よしよし。上手く行った!」


 しっかり想定通りの出力で充電できている。いやぁ、よかったぁ。


「アルフィーレ、手、上げて。こう、こう」


 アルフィーレはまた小首を傾げつつ、おれの言う通りに手を上げてくれる。


 おれはその手に、軽くぱちんと手を当てた。はい、たーっち!


「いえい!」


「いえい?」


 やっぱり不思議そうにしつつ、微笑んで応じてくれる。成功や勝利といった喜びを分かち合う行為だと、いずれ分かってくれるかな?


 そこからは楽な作業だ。延長ケーブルを使って、寝室のポータブル電源から居間まで電源コンセントを届かせる。そこで取り付けた電源タップに、テレビやら据え置きゲーム機やらを取り付けていく。ノートPCもだ。


 屋敷にもともとあった家具をテレビ台代わりにしたりして、いい感じにくつろげるように配置。


「ふぃー、終わったぁ」


 テレビ前に移動したソファーに腰を下ろして一息。


「おちゃ、つくりました」


 すぐアルフィーレがお茶を出してくれる。なんて気遣いのできるいい子だろう。


「ありがとう。アルフィーレも手伝ってくれて助かったよ」


「おてつだい、できて、うれしい、です。ごはん、つくります」


 アルフィーレは微笑みとともに丁寧にお辞儀して、台所のほうへ去っていく。


 おっと、もうそんな時間だったか。つい夢中になってしまった。


 やっぱり、作業の先に明確な恩恵があるって分かってるとこうなるよね。ははっ、会社の仕事じゃこうはいかないんだよなぁ。いやまあ、そうなるのが理想なんだろうけど。


 では、アルフィーレが夕食を作ってくれるまで、その恩恵を確かめてみますか!


 さっそくテレビをつけ、持ち込んだ据え置きゲーム機――PS5を起動させる。


 うん、ばっちりだ! でもネットが繋がらないから、オンラインゲーム系は全滅だな。もちろんダウンロードもできないから、ゲームはパッケージ版のみ。あ、だけどアップデートもできないか。


 最近のゲーム機は思ってた以上にネットに依存してたんだなぁ。アップデートやダウンロードのために、いちいち日本に持ち帰るのは面倒な大きさと重さだし、DVDやブルーレイの再生機としての利用が主になっちゃうかも。


 となるとメインゲーム機は、ノートPCかな。HDMIケーブルでテレビに繋げば大画面で遊べるし。ニンテンドースイッチ2があれば最有力候補だったけど、あれは発売したばっかりで全然手に入らないしね。


 よし、もろもろ確認もできたし、どのゲームから遊ぼうかなぁ?


 前回中途半端で止まってる『ギレンの野望』もいいけど、せっかくだから、Steamで買ったものの積みゲーと化していたHD-2D版の『ドラクエ3』でもやっとこうかな。


 ははは、異世界ファンタジーの世界で、異世界ファンタジーのゲームやってるって、なんか変な感じ。


「ごしゅじんさま、なんの、おんがく、ですか?」


 なんてやっていると、ゲーム音楽に誘われてアルフィーレが顔を出した。


 そしてテレビ画面を見て、驚きで固まった。


「エムラリス!? エムラリス ミリタス!? マスティール、エムラリス ミリタス!」


 パタパタと駆け寄ってきて、横とか裏とか色んな角度からテレビを眺める。やがてテレビとおれの間に立ち塞がった。


「ヌエラス エムラリス! フェリタス! フルギタスラース!」


 うん、久しぶりになに言ってるのか、まったく推測もできない。


 なんでそんなに慌ててるんだろう?


 やがてアルフィーレは、言葉が通じてないと理解したらしい。あうあうと口を歪ませ、必死に語彙を絞り出してくれる。


「え、あぶない、です! うごく、のろい! にげる、です!」


 あー、なるほどなるほど。絵が動いてるから、これは呪いの絵画だと思ってるのか。うん、異世界にはありそうだよね、そういう人を害する呪いの品って。


 勘違いしたアルフィーレは、おれを庇って、逃げるように言ってくれてるわけか。なんて健気だろう。そこまで尽くされるような人間じゃないと思うんだけどなぁ。


 でも、真実を知ってるおれからすると、つい「ふふっ」と笑みがこぼれてしまう。


「ごしゅじんさま?」


 おれが慌てず逃げず、むしろ笑っていることにアルフィーレは困惑した。


「大丈夫だよ、アルフィーレ。これは、危なくないから」


「あぶない、ちがう、ですか?」


「うん、これゲームだから。ほら、この道具で動くの分かる?」


 コントローラーを操作するところを見せて、それと画面内の絵が連動していることを示す。


「ごしゅじんさま、のろい、うごかす、ですか?」


「呪いじゃないんだけどなぁ。これは、遊びの道具なんだよ」


「あそび……。おもちゃ、ですか?」


「そんなところ。危険はまったくないよ。安心して」


 アルフィーレはおれとテレビ画面を交互に見やり、まだ混乱の残る表情でだが、頷いた。


「あぶない、ちがう、わかりました……。ごはん、つくります」


 改めて台所へ戻っていく。


 そうしてしばらく、のんびりゲームを楽しんでいたが……。


 あれ? なんかいつもより料理に時間かかってない? なにかあったのかな?


 と振り返ると。


「うぉっ?」


 アルフィーレが背後に立っていた。その目はテレビに向けられていた。


 すぐハッとして、アルフィーレは取り繕うように早口で告げてくる。


「ごはん、ようい、できました」


「あ、うん」


 ゲームを中断してダイニングへ。出してくれた料理は、なんだかいつもよりちょっと冷めてるような?


 はは~ん、これはアレだな。食事の用意ができて呼びに来たけど、ゲームの様子が気になって見続けちゃってたんだな。


 ふふふ、いいねぇ。ゲームに興味を持ってくれるなんて、いいじゃない。


「ねえ、アルフィーレ。お仕事が終わって暇な時間はなにしてるの?」


「おしごと、ない、じかん……。あ、う……」


 食事中、一緒に遊べるんじゃないかと思って尋ねてみたら、アルフィーレは申し訳なさそうに目を伏せてしまった。


 やがて、叱られるのを恐れる上目遣いを向けてきた。


「おそうじ、おせんたく、してます……」


「あれぇ? おれ、ちゃんと休むように言ったよね?」


「やすむ、してます。でも、じかん、あまる、です。なに、すれば、いいですか?」


「好きなことして遊べばいいのに」


「あそぶ。わからない、です……」


 あれ? そういえばこの前もこんなことを言ってた気がするな。あのときは、おれの言葉の意味にわからないところがあったのかと思ったけど、そうか、遊びがわからないのか。


 いや、遊びがわからないってどういうことだ?


「おしごと、ない、じかん、はじめて、です。なに、すれば、いい、わからない、です」


 それはつまり、年中無休で過重労働が当たり前だったアルフィーレは、余暇を得るのが初めてで、どう過ごせば良いのか分からないってことか。


 そんなの、あまりに残酷な人生じゃないか。なにか楽しみがあればこそ、人はつらい仕事もきつい仕事も耐えていけるっていうのに。


 おれが遊びを教えてあげないと。


 いい機会だ。ゲームに興味を持ってくれてるみたいだし、是非とも一緒に遊んでもらおう。


「じゃあアルフィーレ、おれとゲームで遊ぼう」


「ごしゅじんさまと、あそぶ?」


 アルフィーレは顔を上げ、期待に満ちた目を輝かせた。





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 次回、初めてのゲームプレイに挑むアルフィーレ。どんどん夢中になっていく様子は、とても微笑ましいものでした。

『第15話 はい、たのしい、です!』

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