第5話 「バカの誕生日」

朝の光が窓から差し込み、タロウの部屋を柔らかく照らしていた。今日はタロウの誕生日。しかし、タロウはいつも通り、何も特別なことを気にする素振りはない。ベッドから飛び起きると、彼は鏡の前で髪をぐしゃぐしゃに直し、「よし、今日も全力でバカをやるぞ!」と叫ぶ。胸に手を当て、深呼吸をして一日のスタートを決めるその姿には、どこか清々しいものがあった。


ユリはすでにカフェオレを用意して、タロウの家の前に立っていた。小さな箱を手に持ち、内心で何度も練習する。「タロウ、驚くかな……喜んでくれるかな……」心臓が早鐘のように打つ。箱の中には、ユリが自分で選んだ小さな時計と手書きのメッセージカードが入っている。少し恥ずかしく、でも心を込めた贈り物だ。


タロウは台所で昨日のチャレンジ料理の片付けをしていたが、玄関のチャイムが鳴ると、びっくりした表情で振り向く。「ユリ!?もう来たのか!」濡れた髪を振り、目を丸くするタロウに、ユリは微笑む。「はい、遅れないように来たの」箱を手渡すと、タロウは不思議そうにそれを開ける。中身を見て、目を見開き、しばし黙る。そして突然、満面の笑顔を浮かべて「うわあ!これは……ありがとう、ユリ!本当にありがとう!」と叫ぶ。その声は部屋中に響き渡り、思わず隣の部屋から母親も顔を出すほどだった。


ユリは少し赤くなりながらも、嬉しそうに微笑む。「タロウ、今日は誕生日だから、少しはゆっくりしてほしいな……でも、あなたらしく全力で楽しんでね」

タロウは笑いながらカードを開き、手書きの文字を読み上げる。「“バカでも、毎日全力で生きるあなたが大好きです”……ユリ……」声が震え、胸が熱くなる。彼は大きく息を吸い、深呼吸して笑顔を取り戻す。「よし!今日のバカパワー、全開だ!ユリ、付き合ってくれ!」


その後、二人は町を歩き、途中で小さなアイスクリーム屋に寄り、笑いながらお互いの好みを押し付け合う。タロウはアイスを手に持つと、嬉しそうに踊りながら歩き、ユリは思わず吹き出す。通りの人々が微笑ましそうに見守る中、二人の世界は小さな幸福で満たされていた。


夕暮れ、赤く染まった町並みを背景に、二人はベンチに座る。タロウは時計を手に取り、「毎日、バカ全開で頑張るからな!」と宣言する。ユリはそっとタロウの手を握り、「うん、ずっと見守ってるから」と答える。その瞬間、街全体が二人の笑いと温かさに包まれているように感じられた。今日という日、タロウの誕生日は、失敗と笑いと少しの感動で、確かに輝いたのだった。

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