異世界行きダンプの運転手
シンリーベクトル
第1話 異世界行きダンプの運転手
今日の注文は……また“引きこもりの中年”か。
エンジンをかけながら、俺は伝票をちらりと見て吐き捨てた。
ダンプの車内は狭い。窓の外に映るのは、ごくありふれた日本の住宅街。
そこを、俺のダンプは音もなく滑るように走っていく。
「……ったく、何度やっても気持ちのいいもんじゃねえな」
前方にターゲット。
くたびれたジャージ姿で、夜中にコンビニ袋を提げて歩いている中年男。
あいつが“選ばれた魂”だ。
――いや、正しくは“異世界の燃料”だな。
ブレーキは踏まない。アクセルを緩めることもない。
ダンプのタイヤが地面を噛み、重たい鉄の塊がまっすぐ突っ込む。
鈍い衝撃と同時に、中年男の姿は光の粒になって四散した。
血も悲鳴も残らない。ただ一瞬、淡い蒼光が舞い上がっただけ。
「はい、お届け完了っと……」
俺は煙草を咥え、ハンドルに腕を投げ出した。
この光が女神のシステムを通り、異世界へ転送される。
そいつが勇者になるか、ただの兵士になるかは……知ったこっちゃねぇ。
だが、知っている。
送り込んだ連中がどうなったかは。
剣を持たされた学生。
魔法を習わされたOL。
「俺が勇者だ!」と叫んだ筋肉バカ。
――だが全員、同じだった。
魔王軍の兵に囲まれ、炎に呑まれ、血に沈む。
勇敢に叫んでも、泣きながら逃げても、結末は一緒。
俺がハンドルを握るたび、そいつらは異世界に送り込まれ、そこで“使い潰される”。
「やれやれ……俺のやってることは、ただの出荷作業かよ」
窓の外に広がる夜景を眺めながら、ポケットから煙草を取り出す。
火をつけて一口吸うと、胸の奥まで苦い煙が広がった。
ダッシュボードに視線を落とす。
一枚の紙切れ。
色鉛筆で描かれた、少し歪んだダンプの絵。
妹が病室で「元気になってね」と笑って渡してくれたものだ。
……結局、俺は元気になんてなれなかった。
でも、なぜだろうな。死んだはずの俺が、今こうして“ダンプの運転手”をやってる。
まるで、この絵に縛られているみたいに。
「……ったく。妹の落書き一枚に、俺の人生、引っ張られてんのか」
煙を吐き出しながら、俺はもう一度その絵を見つめた。
やけに雑なタイヤ、でかすぎるライト。
だけど、それがどうしようもなく愛おしかった。
──こうして俺の夜は、また次の“運送”に向けて走り出す。
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