第3話-1 しゅ〜かの戦い方

 第三話 しゅ~かの戦い方

 

「さて……今度は、お前の〝戦い方〟を見せてもらおうか。かかってこい。――ロストメリア・しゅ~か」


 タンジーに戦いを挑まれたしゅ~かは、タンジーをじっと見つめて構えた。

 空気がぴんと張りつめる。

 しゅ~かにとって二回目の戦闘だが、相手はモーベットも戦ったことのない幹部だ。

 今までの戦闘とはわけが違う。

 しゅ~かは一歩前に出て彼の様子を伺う。

 しかし、その足は小さく震えていた。

 そんな彼女の様子を見て、タンジーは呟く。


「まあ、二回目の戦闘だ。怖がるのも無理ねぇか」


 次の瞬間、タンジーは地を蹴った。

 地鳴りのような踏み込みとともに、一閃。

 彼の手には、独特な波打つ刃のフランベルジュがあった。

 火を帯びるように赤黒く光るその剣が、唸りを上げてしゅ~かに迫る。


「先行は俺がもらってやる」


 その殺気に、しゅ~かは息を呑む。

 だが、目は逸らさなかった。

 直感で斜め前に跳ぶ。

 フランベルジュの軌道が、寸前で彼女の頬をかすめる。

 風圧で切られたかのような熱を感じて、思わず手が汗ばんだ。


「まあまあだな。避け方は悪くない」


 タンジーは笑っていた。戦いを愉しんでいる顔だ。

 押されている様子のしゅ~かに構うことなく、タンジーはフランベルジュを振り続ける。

 波打つ形の刃が、空気を引き裂くようにしゅ~かに襲いかかってきた。

 しゅ~かは左に、右に、と必死で身をかわすが、剣風が頬を掠めて熱い痛みが走る。

 タンジーの攻撃を避けることに必死で、攻撃の隙を見つけられない。

 しゅ~かは息を切らしながら後退するばかりだった。


「ちょっと、これ……まずいんじゃねぇかぁ~?」


 ハトさんが小さくつぶやく。

 この一瞬のやり取りを見ただけでもわかった。

 彼の力は圧倒的だ。このままでは、しゅ~かは斬られてしまう。


「……っ、ダメだわ。黙って見てるだけなんて、私にはできない!」


 モーベットはそう言うと、タンジーに向かって駆けだした。


「これでも喰らいなさい!」


 モーベットはタンジーの後ろに回り込むと、彼に向かって思い切り蹴りを入れる。

 しかし、キックがタンジーに届く前に、その脚をがっちりと掴まれてしまった。


「きゃあっ!」

「おっと、無闇に突っ込むもんじゃないぜ。先輩?」


 タンジーは意地の悪い笑みを浮かべると、軽く指を鳴らして呪文を唱える。


「アドレスケレ」


 その言葉と同時に、モーベットの足元から鮮やかな緑の茎が突き上がり、一気に伸びて彼女の脚を絡め取った。


「なっ……!? なによ、これ……っ!」


 茎は彼女の身体を這い上がり、顔から下の部分を覆っていく。


「モーベット! 大丈夫かぁ~!」


 心配したハトさんが、毛糸玉のようにぐるぐる巻きにされたモーベットに向かって飛んで行った。

 しかし、ハトさんがモーベットの元にたどり着くと同時に、彼の羽も覆われてしまった。


「くそぉ~っ!」


 動きを封じられたモーベットは目を見開き、タンジーを鋭く睨みつける。


「何するのよ! この卑怯者!」


 その一言に、タンジーは肩をすくめた。


「卑怯じゃねぇ。戦略だよ。……それにしても、ほんっと情けねぇ姿だな! まあいい、部外者は黙って見物でもしてな」

「先輩! ハトさん!」


 身動きの取れなくなった二人を鼻で笑うタンジーを見て、しゅ~かの胸に熱い怒りが湧き上がる。

 彼はしゅ~かの怒りを察知すると、彼女に視線を向けた。


「やっとやる気になったか。ほら、かかってこいよ。ロストメリア?」


 タンジーはそう言って笑うと、フランベルジュを構え直す。

 しゅ~かはタンジーを睨みつけると声を上げた。


「花だけじゃなく、二人までこんな目に遭わせるなんて!」


 しゅ~かは強く地を蹴った。


「私、絶対に許せません!」


 しゅ~かのキックが届くと同時に、タンジーも動く。

 彼の剣が振り下ろされ、その刃がしゅ~かの身体を掠める。

 しかし、次の瞬間には、しゅ~かはタンジーの背後に回っていた。


「なっ……!」


 タンジーは振り返ると目を見開く。

 背後からの一撃。拳に宿した魔力が爆ぜる。

 タンジーは剣を横に払い、なんとかそれを受け流すが、腕がしびれるような衝撃に眉をひそめた。


「……へぇ、新人にしてはなかなかやるじゃねえか」


 タンジーが舌打ちするのと同時に、地面が脈打つ。

 再び、足元から茎が這い上がろうとする。

 しかし、しゅ~かはそれを踏み抜いた。

 魔力が地に放たれ、茎の芽が爆ぜて弾け飛ぶ。


「何度も同じ手を喰らうと思わないでください!」


 そう叫びながらタンジーをまっすぐ見据えるしゅ~かを見て、タンジーの表情が変わった。

 驚愕、そして……興奮。


「フッ……マジで、ただの新人じゃねえんだな」


 タンジーは口角を上げる。


「じゃあ、こいつも試してみるか」


 そう言うと、タンジーは手に持ったフランベルジュに火をつけると、そのまま地面に突き刺した。

 フランベルジュから炎が燃え移り、しゅ~かを取り囲む。


「うわあっ!」


 炎はじわじわとしゅ~かの足元に近づいてきた。

 逃げ場をなくしたしゅ~かは炎を見つめる。


「どうしよう……」


 だんだんと汗ばんできたが、これが炎の温度によるものなのか、冷や汗なのか、今のしゅ~かには考える余裕がない。


「考えなきゃ……考えなきゃ……」


 どんどん追い詰められていく中、しゅ~かは一際大きな炎に目を向けた。

 しゅ~かの背丈ほどある、大きな炎。

 それを見つめると、しゅ~かはハッとした顔をした。


「なんか、あそこだけ何かがない気がする……」


 揺らぐ炎をじっと見つめると、何かを確認するようにうん、と頷く。

 そしてしゅ~かは、大きな炎に飛び込んだ。


「「しゅ~か!」」


 顔を青くしたモーベットとハトさんは、目を見開いて唇を震わせながら、しゅ~かの名前を叫んだ。




続く

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