『にせもの』

亜有我呼(ああああ)

第一章 『仮面』

第1話『呪い』

『にせもの』


【第一章】『仮面』


 この世界にある全ては『にせもの』で、何一つとして本当のものなんて無い。

 多分、それが私が信じる唯一の事実だった。

 私はとある神社の娘として生を享け、物心ついた頃には「神様」について教えられてきた。

 しかし、それを信じきる事も出来ないうちから皆が信じる「サンタクロース」が嘘だと知って、それ以来私は親も先生も友達も、誰一人として心から信じることはなかった。


 そんな私も中学二年生になり、新学年では風紀委員として活動する事になった。

 今日の委員会では、新年度の『あいさつ運動』とやらの分担についてが議題になっており、各クラスから選任された委員が様々理由を付けて、他の誰かに仕事を押し付けあっていた。


「先生、私はクラブにも所属していませんし、毎朝の家の掃除もすぐに終わるので、毎日でも当番をやれます。」


 どうせ決着のつかない面倒事の押し付け合いに、私は良い人ぶってそう言った。

 そんな仕事は面倒くさいし、本当ならやりたくないけれど、私の『仮面』は良い人であるために、私に自主性がある模範生を演じさせた。

 偉いね、ありがとうの言葉に続いて拍手が起こり、そんな拍手は一瞬で止んだ。


 委員会はすぐに決定が出て終了し、委員たちは各々自分の部活や目的の為に解散した。

 自分の仮面を揺さぶられる事もなく、余計な仕事を与えられる事もなく終わった皆は、私にうわべだけの感謝をしながら嬉しそうに去って行き、先生は最も利用価値のある仮面を改めて称えた。

 ーーこんな仮面の裏側はきっと、結局全部『にせもの』なのに。


 きっと誰だって、人として生きていく為、皆に信じてもらう為に、あるいは誰かに認めてもらう為に、息苦しい仮面を着けて生きている。

 誰かのそんな仮面を利用するような奴らは嫌いで、そういうやつほど誰かが仮面を外して本性を見せようとすると嫌がったり、逆に喜んだりする。

 だから私は『にせもの』だらけの世界で生きていけるように、笑顔の息苦しさに耐え、神様に祈りながら生きていた。

 ーーいつか、私が嫌いな奴らが皆、不幸になりますように、と。

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