第16話

 ※ ※ ※


 旅行していたその数日間の内、ぼくが奄美にいたのは、予定していたよりも一日短い三日だったのだけど、その間、いくつかの不思議なことが起こった。振り返って考えてみると、これもその内の一つだったような気がしている。ぼくたちはまもなくして、あの老夫婦と再会を果たしたのだ。そしてその夜に起こった旅行中最も不思議な出来事は、今でもしっかりと胸の中に息づいている。脳内の記憶だけでなく、直接胸に刻み込まれたオブジェのように、立体的なイメージとして。喩えるならばそう、それはまるで、樹液の中に閉じ込められた羽虫のように、奇妙で残酷で、そして美しく儚いイメージだ。

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