第12話
「えっと、クッキー焼いてきましたので、よかったら……」
先ほど厨房で作ってきたクッキーを見えない力でベンチとお尻をくっつけられてしまっているリラ王女に差し出しました。糖分控えめな材料で作っているのがポイントです。ヘルシーなのでいくら食べても大丈夫なはずです。ごめんなさい、やっぱり大丈夫じゃないかもしれないです。塵も積もれば山となるって言いますもんね。
「…………毒とか入ってないわよね?」
わたしの手の平に乗せられたお皿に乗ったクッキーを指でつまみあげながら、リラ王女がクッキーとわたしをジロリと睨みつけてきました。
「人質を毒殺するわけないじゃないですか」
「……死なない程度の毒が入ってる可能性だってあるでしょ」
「そんな毒も入ってないですよっ」
どうやらかなり警戒されてしまっているみたいです。信じてもらうためにはどうしたら…………思い付きました。
「だったらわたしもここで食べます。これなら、毒入りじゃないって証明できますよね」
リラ王女の隣に座り、クッキーを一口食べました。なんかパサパサしてますし、もうちょっと甘めでも良かったかもしれません。
「やっぱり毒入りだったじゃない!」
「ど、毒じゃないですよ! ただちょっと味気ないなって思っただけで……」
何とも形容しがたい微妙な味だったせいでつい微妙な表情をしてしまったせいか、変に邪推されてしまいました。たとえ嘘でも美味しそうに食べた方が良かったでしょうか。いや、そもそもちゃんと美味しく作れていればこんなことにはならなかったのでもしやり直せるのでしたらそこからですね。
「ふーん。どれどれ……?」
味が気になったのか、リラ王女がわたしの膝に置かれた皿からクッキーをひとつ指でつまんでぱくりと口に放り込みました。結果オーライですね。
「……あたしは好きよ。こういうの」
「ほんとですか!?」
思わずリラ王女の手を両手でぎゅっと握ってしまいました。王女の手は、さっきまで氷水にでも漬けていたのかと思うくらい冷たかったです。ですが手が冷たい人は心が温かいともいいますし、わたしの心はほんのり温かくなりました。
「……ええ」
「ありがとうございますっ!」
思わず握った手を上下にぶんぶん振り回してしまいます。
「……あんた、本当に魔王?」
「…………一応、そうなってます」
「やっぱり、一応なのね……」
気づけば勇者が来るまであと3日しかありません。あと3日で、わたしはちゃんと、魔王として振舞うことができるのでしょうか。
「ま、せいぜい頑張りなさいよね」
ここで問題です。
人質に励まされる魔王は、一体どの世界にいるでしょうか。
答えは、この世界にいる――でした。
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