第20話 田沼薫、鶴牧蘭になる(桂の視点)
2028/11/3(金、祝)PM3:30
「ただいまお母さん、あーしらの他にこの子も打ち上げに混ぜても良い?」
「初めまして、田沼 薫と申します。皆さんのライブを観てファンになった事を伝えたら、私も打ち上げに混ぜて頂く事になりました」
「あらまあ!、随分と可愛いお客様じゃない?、どうぞ上がって。そう言えば明未ちゃんは?」
「クラスの後片付けで1時間以上遅れるんだって」
「それじゃ仕方無いわね…。」と親子揃って残念そうだった…。
台所にて、蒼乃さんと薫ちゃんを含めた全員で打ち上げの準備を行ない、ご馳走も一通り並んで、主役不在の乾杯をした後、薫ちゃんがこう切り出す。
「改めて自己紹介します。ボク、田沼 薫っす、坂沼中1年っす。ボクの事は呼び捨てで良いっすよ?」
「何だお前、自分の事を『ボク』って言ってんのか?」
「ボクッ娘キター!」と発狂するあびるを蒼乃さんが止めて、落ち着いたあびるが更に続ける。
「誕生日いつなの?」と食い気味に聞くと薫が「え、言うんすか?。に、2月29日っす。しかも、午前2時29分に生まれたっす…。」と気まずそうに答えた。
「もしかしてその事でからかわれたりした?、だとしたらゴメンね…。」とあびるが謝りつつ、「ゴメンねついでにもう1つ、薫ちゃんのあだ名ってもしかして(牛ゴリラ)?」と更に質問した、薫は少し間を置いて。
「…そうっす。25年以上前に(奇妙奇天烈百科事典)ってアニメがあったらしくて、作中の(牛ゴリラ)ってキャラの本名が(田沼 薫)だからそのあだ名にされたっす…。」
「あったな~昔そんなアニメ、あれも結構長くやってたな~…。」
「でも何でアタシらなんだ?、バンドなら他にもあるだろうに…。」
と蒼絵がこう聞くと薫が一呼吸置いて…。
「実はボク、色々あって自●しようと思ってたっす。1個上の姉がいるんすけど、姉は何やらせても人並み以上でボクは何やっても人並み以下だから、そのせいでいつもお母さんからぶたれたり怒鳴られたり、お父さんからはいつもシカトされるっす、何でもこなす姉には普通に優しいんすけど…。」
と暗い顔をしながら語り、更に続ける。
「だから自分を変えたくて、以前から好きだった音楽を始めようと思ったんすけど、うちの両親、ボクにはお小遣いくれないっす。そんな時になんと無く見た今日のライブで『この人達、優しくて楽器貸してくれそう』と想ったっす。あっ、あの智枝って子は別っす。生卵投げたの、あの子っすよね?」
と薫が言ってすぐさま俺は。
「やっぱり解る人には解るんだ…。そう言えば今の俺達の現状をまだ話してなかったよね、話しても良いかな?」
と聞くと薫は「あっ、はい…。」と答えたので、俺達がどうやって出会ったか、何で智枝ちゃんなんかに曲を作ってあげてるか、俺が瑠実と結婚を前提に交際するから、それに伴いドラムの瑠実が抜ける事、同時にめいみんバンドを解散させる事を話した。すると薫が真剣な面持ちで。
「ならボクをBerryenのドラマーにして下さい、お願いします!。一生懸命練習するっす、ドラム貸して下さい、ドラム辞めるんすよね?、ならついでに教えて欲しいっす!」と俺らに懇願し出すと。
「ウチらの夫婦生活に支障をきたさない範囲で良ければ、やけどな…。」
「言っとくけどアタシら、本気でプロ目指してっぞ!」
「蒼絵お姉様の言う通りですわ!」
と、Berryenの皆が一斉に薫に質問責めし出すと薫が。
「大丈夫っす、根性ならバスケ部で散々鍛えられたっす!、色んな意味で…。そう言えばあの子の名前って『智加』と『明未』、どっちなんすか?」と聞かれ、事情を説明すると薫は「成る程、そう言う事だったんすね?。だったらボクにも芸名を付けて欲しいっす。前述の理由でこの本名嫌なんすよ」
と薫が言うとあびるが少し考えて「なら(蘭、らん)ってどう?」と聞くと薫が「何で蘭なんすか?」との問いにあびるが。
「あーしら皆、ベリーに関連のある名前だから。丁度クランベリーが居ないから。あーしと同じ(鶴牧)を苗字にすれば(つるも「くらん」)でクランベリーと繋がるっしょ?」
「凄く良い名前っす、今日から(鶴牧蘭)で宣しくっす!」
こうして、田沼 薫に『鶴牧 蘭』という芸名が付けられ、更に続ける。
「そういう訳なんで、ボクをBerryenのドラマーにして下さい、お願いします!、高校は行かないっす!」
「駄目だ!。アタシらは約半年後に高校卒業したら上京するって決めてんだ。そこからまだ2年残ってるだろ義務教育期間が?」
と蒼絵が言うと、あびるが少し考えて。
「だったら2年間地元でお金稼ぎながら力付ければ良くね?、ずらっちだってそうしたんだし。で、晴れて蘭姉ちゃんが中学卒業したら一緒に上京するってのはどう?。それに今からメンバー探してすぐ見つかる保証なんか無いし。ドラマーが最も見つかりにくいっしょ?」と言うと蒼絵が根負けしたのか?。
「…解ったわ。但し、ホンマにちゃんと練習してや。でないとプロになれへんで」
「瑠実お姉様の言う通りですわ!」
「くくく。我が覇道は茨の道だぞ!」
「有り難うっす!。ボク、一生懸命練習して上手くなるっすー!」
「良かったね、早速メンバーが見つかって」
「だな。それよりメミー、国太達から虐待されてなきゃ良いけど…。」
こんな感じで、皆一緒に明未を心配していた。本当に無事だと良いな~…。そんな中、俺は用を足したくなり、トイレをお借りしてリビングに戻ろうとした時、蘭が切羽詰まった面持ちでこう切り出す。
「あの、桂さん。すみませんが、お金貸してくれませんか?。取り敢えず2万程」
「何で又そんなお金が必要なんだ!?」
「どうしても緊急で要るっす、お願いするっす!」
「悪いけど、そんな大金を金を貸す事は出来ない。どんな事情があるか知らないけど…。」
「そうっすよね、じゃあ…。」
「ボクを2万で好きにして良いっすよ?」
「出来る訳無いだろ、そんな事!」
蘭の突然の色仕掛けに困惑してる俺に、あびるが。
「どうしたの2人共、こんなトコで?」
「何でもないっす。戻りましょう桂さん、メインディッシュが無くなるっす!」
と何事も無かったかのような素振りの蘭と共に、俺達はリビングへと戻って行った。てかこの子、打ち上げに混ぜない方が良かったのかな?
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