第11話 明未に寄り添う3人1(明未の視点)

2028/10/13(金)


 午後4時過ぎ、わたしは学校から帰って来て、お父さんがまだ仕事から帰って来ず、お母さんは買い物で、智枝は友達の家に遊びに行ってる。ボイトレをやるには絶好のタイミングだ。そう思って桂お兄ちゃんから貰ったボイトレ本の切れ端を参考に発声練習をする。


 約5分後、「バタン!」と玄関のドアが乱暴に開いた音がして、すぐさまわたしの部屋のドアも乱暴に開かれ、まだ仕事中の筈のお父さんが「何大声出してんだ!」と物凄い剣幕で詰め寄って来た。


「えっ!、まだ仕事中じゃ?」

「今日は棚卸しだから早く終わったんだ!」


 そう言いながらわたしの頬をビンタした。「バチン!」という音が部屋中に響き、瞬間わたしは左頬に激痛が走りながらその場に倒れ込んだ。


「ごめんなさい!。ていうか、車の音しなかったから」と言うと「車は車検に出してて、職場の後輩に送って貰ったんだ!。いつもより早く帰って来てみたら、こんな近所迷惑な事しやがって!」と言いながらわたしを蹴って来たので、慌てて背中を丸めながら「ごめんなさい、ぶたないで!」と懇願しながら約1分間耐えた、その1分がわたしにはまるで1時間以上に感じた…。


 お父さんは憂さが晴れたのか?、舌打ちしながら部屋を出て行った。わたしは心身共に傷だらけになりながら部屋の中で泣きながら蹲る事、数分後。


(コンコン)


 窓の外からノックする音が聞こえた。わたしは恐る恐る障子を開けると、そこにはあびるお姉ちゃんが何か入ってるビニール袋を持ちながら「やっほ~いめいみん♪、ってどしたの?、そんなにボロボロになって…。」


「あ、あびるお姉ちゃん…。」と言うや否や「待って、今そっちに行くから。これ持ってて」とわたしにビニール袋を渡し、窓の下の方に手を掛け、登って来てサンダルを脱いだ。


「その様子だと、又お父さんに理不尽にぶたれたんだね?」と言いながら優しくそっと抱きしめてくれた。わたしはあびるお姉ちゃんの胸の中で思いっ切り泣いた。「ほんっと、酷い事をするお父さんだね~…。」と言いながらわたしの頭を撫でてくれた。


 約1分後、あびるお姉ちゃんから「少しは落ち着いた?」と聞かれ、「うん…。」と答えると「良かった。差し入れ持って来たけど、食べれそう?」


 あびるお姉ちゃんはそう言いながらビニール袋を渡されるとその中には、ほうじ茶入りのペットボトルと、海苔で巻いた野沢菜おにぎり、卵焼き、ウインナーが入ってた。食べ物はどれも出来立てで温かかった。


「わたしの為にわざわざ作ってくれたの?、有り難う。早速食べても良い?」


 あびるお姉ちゃんが頷くとすぐさま、わたしは速攻で頂いた。更に「食べ終える迄、傍に居させて…。」と食べてるわたしの隣りに座りながら寄り添ってくれた。


 約10分後、食べ終えたわたしは「ごちそうさま、今迄で1番美味しいご馳走だったよ」と心からの感謝の言葉を伝えるとあびるお姉ちゃんは「ホント?、そう言って貰えるとあーしも頑張って作った甲斐があったよ~♪。じゃ、あーし帰るから!」と言ってゴミを持ち帰り、窓から出て行った…。


2028/10/14(土)


「智加。あたし達、氷の里ホールに行って来るから洗い物お願いね?」

「つかおめえは今回関係無えから来んな!」

「んじゃあ行くぞ、ついでにヅラ男にお昼代奢らせに!」


 こうして彼等は、朝食を食べ終えて氷の里ホールへと向かった。ていうか、桂お兄ちゃんが可哀想…。わたしは、彼らが居ないから思いっ切りボイトレしていた。正午になる少し前。


(ピンポ~ン♪)


「誰だろう?」と思いながらドアのレンズを除くと、あびるお姉ちゃんが居た。


「やっほ~いめいみん!。あいつらレコーディングでしょ?。お昼ご飯はどうするの?」

「か、カップラーメン…。」

「そっか…。もし良かったらあーしん家で一緒に食べよ~?」

「えっ!、でも毎回悪いよ…。」

「前にも言ったじゃん、『めいみんならいつでも大歓迎』だって!。ねえ来てお願~い?、あーしの為に~♪」

「わ、解ったよ。いつも有り難う…。」


 こうしてわたしは又しても、鶴牧家でお昼ご飯を御馳走になってしまった…。昼食後。


「ご馳走様でした。あびるお姉ちゃん、わたしにも食器洗いさせて?」

「そんな事しなくてイイから!、それより早く帰った方イイよ?。家空けたままだと、又あいつらに虐待されるよ~?」

「確かに、あいつらならやり兼ねねえ。『何勝手に家ん中空けてんだ!』みたいな感じで。アタシらの事は気にしなくて良いからとっとと帰りな!」

「皆…。本当に有り難う!」


 こうしてわたしは、鶴牧家の方々の善意に甘えさせて頂き、足早に帰宅の途に就いた…。わたしが家に着いてから数分後に皆が帰って来て、智枝がノックもせずに。


「よお智加!。つーがあだしら、ヅラ男から曲の著作権を貰いつつ、スタジオ代、MyTunesマイチューンズSpotflyスポットフライ等への配信代、そして昼食代も出させてやったぜ!。後あいつの曲聴いてたらあだし、当日バンドでやりたくなって来たから、ヅラ男にこう言ってやったんだ!」


 智枝が勝ち誇ったようにほくそ笑みながら、更に続ける。ていうか著作権『貰った』んじゃなくて『奪った』の間違いじゃ…。


「『当日おめえと蒼絵さん達のバンドメンバーで、あだしのバックバンドやれ!。蒼絵さん達も説得しろ!。もし断ったら智加がどうなるか解ってるよな?』と言ってやったらすんなりOKしてくれたぞ!」


 と自慢げにそう語る智枝に、わたしは心底呆れていた。何て図々しい人達なんだろう…。


 午後3時頃にお客さんが来て、お父さん、お母さん、お客さん2人、計4人で玄関の中、同時にわたしの部屋の真ん前で駄弁っていて…。


「んでよ修蔵、こないだヅラ男と再会して、俺の自慢の愛娘の為に曲作らせたんだよ午前中」

「お前相変わらずだな~」

「んだぞおめえ!」

「何言ってるの?、あたし達の役に立てるんだからヅラ男君も嬉しい筈よ」


 こんな感じで約1時間耐えてるけど、1時間以上に長く感じた。まして大好きな桂お兄ちゃんの悪口を言ってるから尚更…。わたしはあびるお姉ちゃん家に避難したいけど、出た所で又お父さんから『出て来んな!』って怒鳴られるかと思うと、足が竦んでしまった。そんな中…。


(コンコン)


 窓の外から昨日同様、ノックする音が聞こえた。わたしは恐る恐る障子を開けると、そこには蒼絵お姉ちゃんが何か入ってるビニール袋を持ちながら「よっ、メミー!。そっち行っても良いか?」と聞いて来た。


 わたしは「あ、蒼絵お姉ちゃん!?。う、うん、良いけど…。」と驚きつつそう答えると、あびるお姉ちゃん同様にわたしにビニール袋を渡し、窓の下の方に手を掛け、登って来てサンダルを脱いだ。


「何だ?、部屋の向こうがやけにうるせえな」と尋ねる蒼絵お姉ちゃんに事情を説明すると。


「マジかよ!、これにずっと耐えてんだろ?。てかあいつら、玄関の中にすぐドアあるのに、大声出したらその部屋の人が迷惑するって解んねえのかよ、大の大人が4人も揃って。アタシが注意して来てやる!」


 わたしはと咄嗟に小声で「待って!」と言いながら蒼絵お姉ちゃんの腕を掴み、「そんな事したらわたし、後でお父さんに又大激怒されるよ、この部屋に入った蒼絵お姉ちゃんも一緒に!」


 冷静になった蒼絵お姉ちゃんがわたしの隣りに座りながら「ほんっと、どうしようもねえ奴等だぜ、全く…。あいつらが帰る迄、●ルク一緒に聴くか?」と尋ねた。


「うん。蒼絵お姉ちゃんがどんな音楽が好きか聴いてみたかったんだ!」


 わたしがそう答えると蒼絵お姉ちゃんは、ハンカチでイヤホンの汚れを軽く拭き取り、わたしの耳に入れてくれた。蒼絵お姉ちゃんは更にビニール袋を持ちながらこう尋ねて来た。


「良かったら食うか?、アタシ姉貴と違って料理あんま得意じゃねえからこんなモンしかご馳走出来ねえけど…。」と言いながらハンバーガーとコーラが入ったペットボトルを見せて来た。


「ううん、全然嬉しいよ。頂きます」と言って先にコーラを飲もうとすると、ペットボトルが2本共開いてる事に気付き、その事を尋ねると。


「だって炭酸飲料開けるともしかしたら零れて畳が汚れるかも知れねえだろ?。そしたらあいつらの事だから絶対メミーに大激怒するだろ?。それに蓋を開けたらその音に気付いて、家族の誰かが『智加に余計なモン食わせんな!』みたいな感じで怒鳴り込んで来るかもと思ったから敢えて開けといたんだ。まして今、お客さん来てるから尚更そう思って、見ねえ車もあったし…。」と答えた。


「そこ迄わたしの事を考えてくれてたんだ、本当に有り難う…。」わたしは感極まって蒼絵お姉ちゃんの胸の中で声を押し殺して泣いた。


 約1分後、「少しは落ち着いたか?」蒼絵お姉ちゃんの問いにわたしは頷くと「んじゃ食うか?、アタシも丁度小腹減ったし」と言ってすぐさま、わたし達は一緒にハンバーガーを食べた。こうして大好きな人と一緒に食べるハンバーガーとコーラも又、格別だった。


「ご馳走様、美味しかったよ。」とわたしが感謝の意を伝えると、「姉貴の手料理には到底及ばねえけどな。それよりあいつらが帰る迄、一緒にラ●クでも聴くか?」と言ってくれて、わたしはご厚意に甘えさせて貰いながら、蒼絵お姉ちゃんが好きなバンドのおススメの曲を一緒に聴いていた。約1時間後。


「んじゃ俺、そろそろ帰っから。あんまヅラ男や智加ちゃんの事いじめんなよ?」

「んだぞおめえ!」

「いいんだよ、あんなドン臭え役立たず共!」

「んじゃ気を付けて帰ってね、修蔵君、半田君」


 と言って漸く彼等が帰って行き、気配が無くなったのを確認して蒼絵お姉ちゃんが。


「漸く帰りやがったか。てか国太の野郎、メミーとラッズを馬鹿にしやがって…。」

「別に気にしてないよ、いつもの事だから…。」

「マジかよ?。早くあいつらから自立出来るようにお互い頑張ろうな。じゃ、アタシも帰るから」


 と言って蒼絵お姉ちゃんは、ゴミを持ち帰り、窓から出て行った…。

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