第36話似た者同士
期末試験が終わり部活の活動も再開された。
部活終わりにシャワーを借りに来た水谷さんはというと、シャワーを浴び終えて俺のいるリビングにやってきたのだが……
「いや~、久しぶりの部活はしんどかったよ」
ものすごくお疲れなようだ。
そんな彼女に俺は聞いてしまう。
「テストの結果ヤバそうだったけど退部にならなかったの?」
「あははは……。次の中間試験も悪かったら退部だね」
「めっちゃ追い込まれてるじゃん」
「しかも、夏休みに夏期講習とかには行く予定はありません! って言ったら、とんでもない量の問題集をプレゼントされちゃった」
ちゃんとヤバそうな水谷さんに俺は苦笑いが止まらない。
そんな最中、2階で掃除をしていた咲夜がリビングへと降りてきた。
「あら、来てたのね」
「うん! 部活動再開したから、今日からまたシャワーをお借りしに来てるんだ~。咲夜ちゃんはどこいたの?」
「2階で部屋の掃除をしてたのよ」
水谷さんは俺の両肩にポンと手を置いて俺の目を見て言う。
「輝明君。さすがに掃除くらい自分でしようよ?」
俺がクズ男だと言わんばかりだ。
まあ、水谷さんになら話してもいいか。
「夏休みの間、咲夜は俺の家で暮らすんだよ。んで、これから自分の部屋として使う部屋を掃除してたわけだ。俺も手伝おうか? って言ったんだけどな」
「へー、そうなんだ」
「あれ、驚かないの?」
「だって、
「叔父さんが家に居ないことが増えるから一人で暮らさせるのが不安で、俺の家に住むことになったんだよ。咲夜の家って過去に何回か泥棒に入られてるし、変なお客さんとかたま~に来るしさ」
うまく伝わったかな? と不安だったが、水谷さんはなるほどと理解した様子を見せた後、ニヤリと笑いながら俺をからかってきた。
「咲夜ちゃんに悪戯しちゃだめだぜ?」
「しないって」
「ま、どうしても女の子に悪戯したくなったときは、私にしときなよ?」
「水谷さんにはしてもいいと」
「あまりにも変態なやつだと手が出ちゃうかもだけどね!」
うーん。やっぱり、これあれだ。
水谷さんって絶対に俺のこと好きだよな。
などと考えつつも、俺は水谷さんの気持ちを探るような質問を投げかけた。
「さては、悪戯されても良いってことは俺のこと相当に好きだな?」
「輝明君のご想像にお任せかな~」
「で、本当は?」
「んふふ~、それは自分で確かめてみれば?」
曖昧な関係って方が色々と気が楽だもんな。
仮に水谷さんが俺のことを好きって明言したら、それはそれできっちりと清算しないといけなくなるか……。
意外と水谷さんって頭脳派なのかもしれないと思いつつも、俺は水谷さんに聞く。
「悪戯してもOKって言ってたけどどのくらいまでいいの?」
「え~、それ言ったらそこまでしてもいいよ~、ってみたいになっちゃわない?」
「いや、そもそも悪戯する気ないから。現状の俺ならどこまで許されるのかな~って気になっただけだよ」
「軽く押し倒すまでならセーフだね」
それって、もうなんでもセーフなのでは?
あまりのウェルカムっぷりに驚きながらも、俺は軽口をたたく。
「そういう風に言ってると本当にしちゃいますよ?」
「責任取ってくれるならいいよ?」
俺と水谷さんが会話を繰り広げていると、傍観していた咲夜が言う。
「もう、付き合っちゃえばいいんじゃないかしら」
水谷さんは咲夜の発言を聞いてやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
「え~、付き合う前が一番楽しいんだよ?」
「その発言からすると、輝明のこと好きって認めてるような気がするんだけども……。まだまだ仲良くなって日が浅いから遠慮してるだけなんでしょうけど、そんな風にゆっくりしてたら誰かに取られるわよ?」
咲夜は佐藤さんのことを言ってるんだろう。
で、咲夜の言葉を聞くや水谷さんは苦笑いになった。
「あははは……。それもそうなんだよね……」
俺は確信する。水谷さんは俺に発破をかけるようなことを言った時点で、普通に俺のこと好きだったっぽいな。
叔父さん曰く、色々な女の子となあなあな関係を続けたことで、父さんは刺されそうになったらしい。
なるべく早めに、水谷さんの気持ちには答えないとな。
俺がちょっと真面目に考えていたら、咲夜はニコニコと笑顔で水谷さんにあのことについて聞きだした。
「そういえば、悪戯と聞いて思い出したのだけれども……、水谷さんはまさか輝明の下着なんて漁ったりしてないわよね?」
ドストレートに問い詰める咲夜。
一瞬にして、水谷さんは笑顔から真顔になった。
あ、これ、やってるな? と言わんばかりである顔を見て咲夜は
「急に静かになってどうしたのかしら?」
「さ、咲夜ちゃんがいきなり変なことを言うから」
「だって、しょうがないじゃない。輝明はちゃんと女の子に配慮して、パンツを見えないようにしていたのに、なぜかパンツが洗濯物の山から掘り起こされていたのを見てしまったんだもの。で、心当たりは?」
目が泳ぎまくってる水谷さん。
怪しすぎるし、もう観念して白状しちゃえばいいのに、と笑っていたときだった。
ボソッと小さな声が聞こえてくる。
「……だって、男の子の脱いだパンツがあったら気になるじゃん」
咲夜は俺を見てニコッと笑った。
ほら、女の子はみんな多少はスケベなところがあって男の子の下着に興味をそそられることがあるのよ? と言いたげだ。
もう、それは分かってるからと笑いつつも、俺は水谷さんをからかった。
「水谷さんってムッツリだったんだな」
「ふ、普通だもん」
「俺はそんなに潔癖症ってわけでもないし、今度からはバレないようにな」
「そ、それは、あれかな? また、私が懲りずに輝明君の下着を漁るとでも言いたいのかな?」
「いや~、そんなことは言ってないよ。ま、咲夜も俺の下着を盗んだことあるって言うし、咲夜と取り合いになるかもだけど頑張れよ」
軽いノリで冗談を言った。
そしたら、咲夜がとんでもない顔で俺を睨みつけてくる。
何、私が盗んだことをしれっとバラしてるのよ! と今にブチギレ寸前だ。
「ふーん。咲夜ちゃんもなんだね?」
「っつつ!!!」
「まったくもう、私だけ変態なのかな~って思って焦っちゃったじゃん。咲夜ちゃんもお仲間で安心したよ」
「……え、ええ。そうよ。そもそも、別に私はただ単に下着を漁ったって聞いただけで、べつに水谷さんのことを変態だとは言ってないわ」
動揺しまくる咲夜。
そして、水谷さんはひそひそと咲夜に語り掛ける。
「ねえねえ、今から盗りに行っちゃう?」
おい、なんて相談をしてるんだよ。
一人じゃなくて二人なら怖くない。堂々と水谷さんは今から俺の下着を盗みに行こうと咲夜をそそのかした。
咲夜はというと……、やっぱりむっつりすけべなのかもしれない。
ゴクリと喉を鳴らして、小さな声で水谷さんにうなずいた。
「……水谷さんがどうしてもというならしょうがないわ」
「んじゃ、行こうぜ?」
「ええ、行きましょう」
水谷さんと咲夜はまるで男子高校生かのような悪ふざけを始めた。
二人は俺の下着を盗りにリビングを出て行ってしまった。
これ、追いかけた方がいいのか?
俺は重い腰を上げて二人が向かったであろう脱衣所へ歩き出した。
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