第30話嫉妬の波動
薬味を買いにスーパーへ行った佐藤さんが帰ってきた。
外は暑かったようで額には汗が滲んでいる。
「ふぅ~、もう夏ですね」
まだ梅雨明けしてすらいないのだが、もうすでに夏と言えるくらいに暑い。
ほんと、うんざりしちゃうよな。
俺は汗をかいている佐藤さんを見ていつものように言う。
「シャワー浴びてきたら?」
水谷さんはいつも俺の家でシャワーを浴びている。
そんなこともあってか、軽い感じで聞いてしまったのだが……
「人の家でシャワーを浴びるのは普通に恥ずかしいのでやめときます」
さ、さすがにそれは……、と佐藤さんは苦笑いだ。
うん、水谷さんが特殊なだけで普通はこうだよな。
「まあ、俺は気にしないからいつでも借りたかったら言っていいからな」
本当に親切心から言っただけだったのに、佐藤さんは眉をひそめる。
「そんなに私にシャワーを浴びさせたいとか輝明くんは変態なんですか?」
「いやいや、水谷さんが俺の家でシャワーを浴びるから………」
「そ、それは大胆なことで……」
「一応言っておくと、別に水谷さんも葛藤がなかったわけじゃないよ。電車で汗臭そうな感じで迷惑がられてから気になってしょうがなくて……って感じで、俺の家でシャワーを浴びるようになったんだよ」
「……なるほど。そういうことでしたか。ちなみに、水谷さんのシャワーを覗いたことはおありで?」
ないないと俺は苦笑いで答えた。
そして、咲夜はちょっとした横やりを入れてくる。
「輝明はビビりだもの。女の子のシャワーを覗く度胸なんてないわ。だから、汗とか気になるのならシャワーとか全然使ってもいいと思うわよ」
「では、機会があったらお借りしましょうかね」
「……そう。さてと、千恵里も帰ってきたことだし、そろそろ素麺を茹でましょうかね」
咲夜は素麺を茹でる準備を始める。
お湯の沸騰を待ちながら。俺は佐藤さんが買ってきた青ネギを刻む。
次に、早く擦り終わらせたい気持ちで一心不乱にショウガをすりおろしはじめたのだが……
盛大に手を滑らせて、ショウガが宙を舞う。
で、佐藤さんの方へ飛んでいった。
「……まったく、焦るからそうなるのよ。千恵里、大丈夫?」
「ブラウスにショウガの汁がべっとりです。私にシャワーを浴びさせようとするために、こんなことをするなんて輝明くんは意外と策士ですね」
「本当にごめん。クリーニング代とか出した方がいいよな?」
「これくらいなら普通に洗濯すれば平気ですよ。ただ、ショウガの匂いがきついので、着替えのTシャツかなんかを貸してください」
と言われたので、俺はTシャツを取り出して佐藤さんに渡そうとする。
「男の子のTシャツを着るなんてちょっとドキドキですね」
佐藤さんは照れくさそうに笑いながら俺のTシャツを手に取った。
可愛くてちょっとドキッとしつつも、俺は佐藤さんを心配する。
「き、着替えだけで大丈夫そう?」
「さすがにシャワーを浴びるほどではないですよ」
「なら良かった。匂いとか気になるなら、遠慮なくシャワー使っていいからな」
「ふふっ、そんなに輝明くんは私にシャワーを浴びて欲しいんですか?」
何度も何度も同じことを言ったからか、佐藤さんが俺をくすっと笑った。
「いや、だって、こう女の子には気を遣ってあげるべきなわけで……。べ、別にシャワーを浴びて欲しいから言ってるわけじゃないからな?」
「そうでしたか。でもまぁ、ここまで言われたらシャワーを浴びた方がいい気がしてきましたね。何気に私は意外と輝明くんのことが好きですし、匂う子とは思われたくありませんし」
なんて話していたら、咲夜が苦笑いで頷いた。
「……まあ、それは今日の千恵里を見てたらよくわかるわ」
お前がなんで頷くんだ? と思っていたら、咲夜はそのわけを教えてくれる。
「今日の千恵里だけど香水がキツいのよ。輝明はちょっと離れた場所に座ってたから平気だったでしょうけど、真横に座っていて匂いに敏感な私にはちょっとキツかったのよね……」
「あー、それはすみませんでした」
「別にいいわよ。男の子の家に遊びに行く際に張り切って香水をつけ過ぎちゃうなんてことは普通だもの。まあ、あれよ。言いにくかったから言わなかったけど、私的にはシャワーを浴びるか、汗拭きシートかなにかで少し香水の匂いを落として貰えると嬉しいわ」
「そういうことなら、シャワーを浴びましょうか……」
咲夜の希望もあってか、佐藤さんはシャワーを浴びることにしたようだ。
なので、俺はタオルを用意して佐藤さんに渡した。
そして、佐藤さんをお風呂場へと案内してリビングへと戻ろうとしたときだ。
インターホンの音が鳴った。
監視カメラの映像を見るまでもなく、俺は誰だろ? と玄関を開けてしまう。
すると、玄関先には……
「私が勉強してるところを見張ってください!!!!!」
だいぶ切羽詰まってそうな水谷さんが居た。
そういえば、水谷さんっていつも最下位争いしてるような子だったっけ……。
「随分と急に来たな」
「えへへ、ごめんね? あ、私のこと見張ってくれるの無理そうなら帰るよ? もともと、ここに来たのは学校に忘れた教科書を取りに来たついでだし」
「試験前なのに教科書を学校にわすれるなよ……」
「で、見張ってくれるのかな?」
「しょうがないな。サボろうとしたら尻を叩いてやるとするか」
追い込まれている水谷さんを俺はそう言いながら、家に招き入れた。
そして、水谷さんは俺の家にあがりこむや否やいつものように言う。
「今日も暑いね~。というわけで、シャワー借りるね!」
「ん、あ、いいけど……」
今は佐藤さんが使ってるよ。
と俺が言う間もなく、水谷さんは脱衣所の扉を開けた。
どうやら、佐藤さんは脱衣所のカギを閉め忘れていたようで普通に開いてしまう。
水谷さんは脱衣所のなかを覗いた後、何も言わずに扉を閉めた。
「誰がシャワー浴びてるの? 咲夜ちゃん?」
「いや、咲夜ではないよ。まあ、あれだ」
「ふーん、咲夜ちゃんじゃないんだ。で、誰なのかな?」
「えーっと……」
状況に困惑している水谷さん。
そんな彼女にどこから説明しようかと上手く言葉が出てこない。
すると、俺の考えが纏まるよりも先に、水谷さんが口を開いた。
「ねえねえ、私にも手を出してるのにさ、他の子にも手を出そうとしてる? まあ、いいんだけどね。別に私達はそういう関係ってわけでもないし、輝明君のこと別に私もまだそこまで好きじゃないし」
さっきまでニコニコしていたのに、今の水谷さんの顔はどこかムスッとしている。
……俺もさすがに馬鹿じゃない。
今の水谷さんを見たら普通にわかる。
そう、水谷さんは――
本当に俺に惹かれつつあったようだ。
だって、今の水谷さんは他の女の子を俺が家に連れ込んでいるのを見てしまい、まるで嫉妬しているようにしか見えないのだから。
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