第21話―芽吹き―その3
咲夜side
電車が止まってしまい家に帰れない。
そんな私は運転が再開するまで、従弟の家でゆっくりすることにした。
預かっている合鍵を使い家に入ると――
リビングにあるソファーに座り、考える人のポーズをしている輝明がいた。
「どうかしたの?」
私が呆れた顔で語り掛けると、輝明は何とも言えない顔で話し出した。
「えっと、このまま頑張られたら好きなっちゃうんだもんと言われまして」
「誰に言われたのよ」
「……水谷さん」
「なるほどね」
意外と私は驚かない。いや、驚くわけないじゃないの。
だって、最近の水谷さんを見てたら、そりゃもう……、どう見ても脈ありにしか見えなかったのだから。
というか、あれね。下手したら、最初から普通に脈ありだったんじゃないかしら?
とうとうこの時が来たかと感慨深くなっていたら、輝明が情けない顔で私に助けを求めてきた。
「俺、どうすればいい?」
必要以上に憎しみを向けなくなった今、輝明は私にとって本当に弟みたいなもの。
そんな子が姉みたいな私を頼りにしてくるところは、ちょっと嬉しい。
いや、結構嬉しい。
意外と可愛いところのある輝明にちょっとキュンとしそうになる。
それがなんだか悔しくて、私は輝明にデコピンをした。
「そのくらい自分で考えなさい」
突き放すように言い放つ。
しかし、それでもやっぱり私の弟分は情けなく泣きついてきた。
「だって、こういうの初めてだし……。ちょっとくらい俺の相談に乗ってくれてもいいじゃん……」
ダメな子ほどかわいいというのは良く言ったものだ。
いつもは生意気な輝明が私に縋ってくる姿にやられそうになる。
「まったく、しょうがないわね」
何もしてあげる気はなかった。
けど、あまりにも久しぶりに輝明に頼られた私は嬉しくてしょうがなかった。
「助かります……」
「それで、輝明はどうしたいのよ」
「それはその……、どうすればいいの?」
「振り向かせたければ頑張ればいいし、このままの関係がいいのであれば普通にしてればいいんじゃないかしら?」
輝明の気持ち次第だと伝えた。
そしたら、輝明は心配そうに私の顔を覗きながら言う。
「頑張って振り向かせようとしたけどさ、『あ、ごめん。やっぱり、輝明君のことはないや』ってならない?」
……いいところに気が付いたわね。
私は心を鬼にして輝明に教えてあげる。
「普通にそれもあり得るわ」
私が無慈悲に告げると、輝明はしゅんと肩を落として落ち込んだ。
「まあ、私からすると頑張らないのは勿体ないわよ? 今後、輝明が水谷さんレベルの美少女とお近づきになれる可能性なんてないもの」
まったく、輝明に何を言ってるんだか……。
変に励ますようなことを言うも、私らしくないと思っていたときだった。
「というか、咲夜からしてみたら俺ってどうなの?」
水谷さんは美少女であり、輝明はそんな彼女と釣り合いが取れてないのを気にしてるようね。
わりと真面目に悩んでいそうだし、ここは優しく言ってあげないとだめね……。
「顔は普通だけど、コミュ力は高いし、空気も読める方だし、実家も太い。まあ、あれよ。そこまで悲観するほどじゃないかしら?」
「お、おう?」
「こういうことを言うと調子に乗るから言いたくなかったけども、意外と輝明って魅力的な男の子なのよ?」
まったく、私は何を言ってるのかしら……。
最近は蔑んでばかりだったこともあり、輝明を褒めるのに違和感が凄かった。
でも、せっかく私がそう言ってあげたというのに……
「そんなわけないだろ」
輝明は私の言うことを否定する。ちょっとイラっとする。
ほんとこういうところはダメよね……。
……って叱ってやりたいけど、輝明の自己肯定感が低くなったのはたぶん私のせいもあるのよね。
ミスするたびに『ほんと、あなたはダメなんだから』なんて言いまくったもの。
「水谷さんにモテてる時点で、わりと自分が魅力的なことに気が付きなさいよ」
「そ、そうなの?」
「ええ、そうよ。だからまぁ、頑張ると決めたのなら頑張りなさいよ?」
輝明に後悔だけは残してほしくない。
あのとき、水谷さんにもっとちゃんと気持ちを伝えていたら良かったのに。
そうならないように私は背中を押してあげた
だって、輝明は水谷さんのことをまだ好きじゃないとか言ってるけど……
「そういうことなら頑張ってみようかな……」
輝明が水谷さんに惹かれつつあるのは見え透いているもの。
まだ好きじゃないだけで、ほとんど好きになりかけなのよね。
だからこそ、私は背中を押してあげたはずだったのに……
「……まあ、私は手伝わないわよ?」
どこか、もやもやとした気分になった。
今までは私くらいしか仲の良い女の子はいなかった輝明に春がやってきた。
それは喜ばしい出来事なはずなのに、なぜか私は素直に喜べない。
これじゃあ、まるでアレね。
水谷さんに輝明が取られそうになって、私が嫉妬してるみたいじゃないの……。
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