2.12 呼吸


 結局本郷は、それから自分の宿の住所を説明できなくなるほど呑んで潰れた。



「重い……潤さん、ちゃんと自分で歩いてください」


 酒臭い本郷に肩を貸しながら、僕は事務所の階段を登る。

 応接室にどうにかたどり着くと、来客用のソファに放り捨てた。


 一応寝ゲロで窒息しないよう横向きに寝かせたが大丈夫だろうか?


 様子を伺うも本人は呑気なもので、すっかり気持ち良く眠っていた。

 僕は事務所をみわたす。


 広々とした部屋はきれいに整っていた。

 深呼吸する。

 僕は息をちゃんと吸えた。


 窓を開けると、五月の涼やかな夜風が汗ばんだ体をなでた。


 すっかり寝静まった町に音はない。

 けれど背後からは、すうすうと規則正しい寝息が聞こえる。

 僕以外の音が事務所にあった。


 僕は窓を閉め、自分のソファへ横になった。




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