第14話 不撓不屈

俺とエイミーが剣を構えた、その瞬間。


目の前に、半透明のウィンドウが音もなく現れ、情報が開示かいじされた。


【Gilgamesh/人型古王】

LEVEL:99(測定上限値)


ギミック:HP減少に伴い、九つの封印剣の属性セット(炎/水/雷/風/土/毒/氷/聖/闇)を順次解禁。弱点が周期的に変動。

弱点:各属性に対応した“封印石柱”を破壊することで、その属性周期をスキップ可能。

特殊攻撃:“パリィ不可”の広範囲衝撃波を追加。


「レベル99……!?」


しかも、測定上限値だと?


つまり、実際のレベルは200以上……そんな都市伝説みたいな話があるとは。


要するに、こいつは俺たちが今いるシステムの埒外らちがいにいる存在だ。


「……先手必勝よ!」


俺が情報を分析するより早く、エイミーが動いた。


上級火魔法ラグド!」


彼女が放った巨大な炎の塊が、ギルガメスに襲いかかる。


だが、古王は表情一つ変えない。


「――極致魔法きょくちまほう カグラード」


ギルガメスが静かに呟くと、エイミーの魔法が弾き返されるどころか、飲み込まれ、吸収された。


そして、今度は俺たちに向かって、比較にならないほどの炎の嵐が吹き荒れる!


「くそっ!」


とっさに、俺は銀のスライムの剣を高速で回転させ、障壁バリアを形成する。


しかし、大火嵐の勢いは凄まじく、俺たちの体力ゲージがみるみる削れていく。


肌が溶けるような熱気と圧力。エイミーの魔力も、もう尽きかけている。


その、一瞬の隙だった。


ふわり、とギルガメスが高く真上に浮遊する。


そして、エイミーを目がけて、九つの封印剣を同時に振り下ろした。


その間、おそらく1秒もない。


瞬時にエイミーは体を回転させ、回避したように見えた。


――が。


ザンッ、と肉が断ち切れる音が響く。


彼女の右肩から先が、地面に転がり落ちた。


「あ……あああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


エイミーの絶叫が、空間に木霊した。


このままでは、全滅だ。


何て俺は非力なんだ。


仲間一人、守れない。


ふと、頭をよぎった。


俺の、ユニークスキル。


《不撓不屈》

――絶体絶命のピンチになるほど、能力が上昇する。


そのトリガーは何だ!


絶体絶命のピンチ……?


今が、その時じゃないのか!?


いや、違う。


まだだ。まだ、足りない。


だったら――これ以上ない絶体絶命を、俺が創ればいい!


俺は覚悟を決め、自分自身の腹に、銀のスライムの剣を突き刺した。


「ぐっ……う……あああああああああっ!!」


死ぬほどの激痛が、全身を突き抜ける。


目の前のウィンドウに表示された俺のHPが、凄まじい勢いで減少し――そして、『1』で止まった。


瀕死ひんし状態だ。


そのとき。


俺の中で、何かが弾けた。


《不撓不屈》が、発動した。


俺は、覚醒かくせいしたのだ。


ウィンドウに表示された俺のステータスは、全項目が『測定不能』になっていた。


力が、魔力が、全身にみなぎる。


試しに、ギルガメスが放った《カグラード》をイメージし、銀のスライムの剣に魔力を注入しようとする。


すると、目の前に、一本の禍々しい魔剣が真横に浮かび上がった。


これか。


俺はその魔剣を手に取り、ギルガメスに向かって、同じ魔法を放った。


「――《カグラード》」


俺が放ったそれは、先程の数倍以上の威力を持つ、圧縮された貫通火炎となってギルガメスに殺到した。


ゴォンッ!!


ギルガメスの左肩に、巨大な穴が空く。


ぽとり、と彼の左腕が地面に落ちた。


「……ぐっ!」


初めて、ギルガメスが苦悶の表情を浮かべた。


戦況が、今、覆る。

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