第6話 ヒルゲート城、巨大正門

 翌朝。


 宿屋の一室で目覚めた俺は、システムメッセージが届いていることに気づいた。


【システムメッセージ】防具の錬成が完了しました。


 よし、できたか!


 俺は早速、アルシュベルドの素材から作り上げた軽装防具を装備する。


 黒を基調としたレザーアーマーで、要所に紫色の鱗が使われている。


 軽いが、防御力はそこらの鉄鎧とは比べ物にならないだろう。


 ロビーに降りると、既にエイミーが待っていた。


 彼女もまた、俺が作った揃いの防具を身に着けている。


 グラマラスな彼女が着ると、ただの防具なのに妙な色気があった。


「準備はいいかしら、ラインハルト」


「ああ、いつでもいける。それで、どうやって隠しダンジョンに潜入するんだ? 入口は護衛官たちの武器庫でもある屯所の中なんだろ?」


 俺の問いに、エイミーは不敵な笑みを浮かべた。


「簡単なことよ。――強行突破よ」


「はぁ!? 強行突破って、お前な……」


 正気か、と俺が言い終わる前に、エイミーは俺の手をぐいっと掴んだ。


「うおっ!?」


「いいから、ついてきなさい!」


 彼女は有無を言わさぬ力で俺の手を引っ張り、大通りを駆け抜ける。


 向かう先は――ヒルゲート城の、巨大な正門だった。


「おい、エイミー! まさか正面から……」


「黙って、私に合わせなさい!」


 城門を守る屈強な護衛官たちが、俺たちに気づいて槍を構える。


 その前で、エイミーは堂々と立ち止まり、高らかに叫んだ。


「手配犯のラインハルトを連れてきたわ! 褒賞金はいただくわよ! さあ、早く開門なさい!」


 その声に、護衛官たちは顔を見合わせ、やがて慌てたように重々しい城門を開き始めた。


 おいおいおい! 話が違うだろエイミー!


 門が完全に開くと同時に、十数人の護衛官が俺に殺到し、あっという間に取り押さえられてしまった。


「なにしやがる!」


「ははは! 大手柄だ! まさか女一人に捕まるとは、古龍殺しも大したことないな!」


 護衛官たちが俺を嘲笑い、完全に油断した、その時だった。


 俺を押さえつける彼らの隙間を縫うように、エイミーがしなやかな動きで城内へと侵入していた。


「――燃え盛る円環よ、彼の地にて爆ぜよ。上級火魔法ラグド!」


 エイミーの凛とした詠唱が響き渡る。


 彼女が手を向けた先――入って右奥にある、石造りの頑丈な屯所施設。


 その屋根の上に、太陽のように巨大な円形の炎の塊が出現した。



 ゴオオオオオオオオオオオッ!!



 次の瞬間、轟音と共に屯所が爆発四散した。


 熱風と衝撃波が城内に吹き荒れ、護衛官たちが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。


「な、なんだと……!?」


 俺を取り押さえていた護衛官たちも、あまりの出来事に呆然と立ち尽くす。


 その隙を、エイミーは見逃さない。


「――凍てつく槍よ、我が敵を滅せ。中級氷魔法クルス!」


 今度は、鋭い氷の槍が数本生成され、護衛官たちに向かって放たれる。


 槍は彼らを傷つけることなく、鎧や足元を凍りつかせ、その場に縫い付けた。


「みるみる、体が凍ってくる! なっ、動けん!」


「くそっ、あの女、裏切りやがったな!」


 解放された俺は、唖然としながらエイミーの元へ駆け寄った。


「……お前の言う『強行突破』って、こういう意味かよ!」


「あら、一番手っ取り早いでしょ? さ、行くわよ!」


 悪びれもせずに笑う彼女に、俺はもうツッコむ気力もなかった。


 エイミーに導かれ、俺たちは爆破され、巨大なクレーターと化した屯所の跡地へと向かう。


 瓦礫の中心に、ぽっかりと口を開けた地下への階段があった。


「ここが、隠しダンジョンの入口……」


「ええ。子供たちの泣き声が聞こえるようだわ」


 エイミーの言葉に、俺は頷く。


 俺たちは視線を交わし、固い決意を胸に、少し階段を降りた先にある秘密ダンジョンの扉を開けるのであった。

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