第4話 冒険者ギルド
冒険者ギルドの重い扉を押し開けると、そこは期待通りの活気に満ちた空間だった。
木製のカウンターには受付嬢が忙しそうに書類を捌き、壁には様々なクエストが貼り出されている。肉体派の戦士やローブを羽織った魔術師らしき者たちが、談笑したり、真剣な顔で情報を交換したりしていた。
「これだよ、これ!」
俺は心の中でガッツポーズをした。まさに王道ファンタジー。この日常が、俺の求めていたものだ。
初心者向けのクエストを探そうと掲示板に目を凝らした、その時。
「……あれ?」
ふと、目についた張り紙に、俺は思わず二度見した。
そこには、俺が古龍アルシュベルドと戦っている動画の、とある一瞬を切り取ったらしき静止画がカラーコピーで貼り付けられている。
さらに、その横には達筆な文字でこう書かれていた。
【緊急指名手配】
名:ラインハルト
特徴:銀色の剣を持つ若き勇者。レベル1で古龍を討伐したとの情報あり。
罪状:グラハム・ディクソン国王からの「招来せよ」との勅命を無視し、行方を眩ませている。
見かけ次第、ただちに警護隊まで通報すべし。
「はあぁぁぁぁ!?」
俺は思わず叫びそうになったが、寸前で口を塞いだ。
なんで俺が指名手配されてんだよ! しかも罪状が「勅命を無視し、行方を眩ませている」って、はえーよ! まだギルドに入ったばかりだぞ!
まさか、あの盗撮野郎の動画のせいで、こんなことになってるとは。
いや、それよりもだ。この『ラインハルト』って、俺のことだよな!?
しかも、国王からの勅命って……そんな大層なもの、俺は知らないぞ!
受付嬢や周りの冒険者たちが、ちらちらと俺の方を見ているような気がする。
くそっ、このままだと、ここで捕まっちまう!
「面倒ごとは嫌なんだよ……!」
俺は素早くギルドを飛び出し、人気のない路地裏に駆け込んだ。
どうする? このままじゃ、自由に動けない。
そうだ、変装だ!
頭の中で、俺は自分のアバター情報を開く。
アバターの容姿を変えられる機能は……あった!
髪型を短くし、色を黒に。瞳の色も茶色に。顔つきも、少し幼く、目立たないように調整する。
よし、これでどうだ。
姿見があるわけじゃないが、感覚的に元のラインハルトとはだいぶ違う顔になっているはずだ。
ついでに、装備もあの目立つ銀色の剣ではなく、ギルドの店で売ってたような鉄の剣に持ち替える。
よし、完璧だ。
俺は意気揚々と、再び街へと繰り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
変装のおかげか、誰にも咎められることなく、俺はヒルゲート城下町を散策することができた。
活気あふれる商店街を歩いたり、中央広場の噴水を眺めたり。
指名手配の件さえなければ、最高に楽しい時間だったはずだ。
「……ラインハルト、あんたね」
不意に、背後から声をかけられた。
まさか、もうバレたのか!? 俺は思わず肩を震わせて振り返った。
そこに立っていたのは、大人の色気を纏った美しい女性剣士だった。
長いプラチナブロンドの髪をなびかせ、切れ長の瞳が俺を真っ直ぐに見つめている。
身体のラインを強調するような露出度の高い革の鎧に、腰には大剣。
その容姿は、まるでゲームのパッケージに描かれるような、まさしく「強キャラ」の風格を漂わせている。
「随分と悪趣味な変装ね。まさか、国王からの召喚を断るとは、とんだはぐれ者もいたものだわ」
女性剣士は、ゆっくりと俺に近づいてくる。
まさか、こんなあっさり見破られるとは……!
「あなたには、少しお話があるの。お付き合い願えるかしら、ラインハルト?」
彼女は口元に不敵な笑みを浮かべ、俺に手を差し伸べてきた。
この人が敵なのか味方なのか、まったく読めない。
俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。
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