第26話:「働くマスコットに、ささやかなる帰る場所を」
(夜──マスコット協議会・本部)
山のような書類を抱え、ふらつきながら廊下を歩くミュン。
顔は完全に死人のよう。目のハイライトは消えている。
ミュン「……なんで報告書だけで200ページあるミュン……」
「“現場の声を反映”とか言ってるくせに、誰も読んでないミュン……」
「読まれない努力ほど……虚しいものは……ないミュン……」
(デスクに置かれた“がんばれマスコット”の張り紙が恨めしい)
ミュン「おまえががんばれミュン……」
(そして──退勤)
すでに日付が変わろうかという頃。
ミュンはヨロヨロと帰路につく。
(玄関前)
ミュン「……今日もクタクタミュン……」
(スッ……)
ふいに鼻をかすめた、ふんわり甘くて温かな匂い。
ミュン「……!? この香り……このパターンは……!?」
(ガチャ──と扉を開ける)
カナタ「おかえりなさい、ミュン!」
(キッチンからエプロン姿でひょっこり顔を出すカナタ。髪はお団子にまとめて、笑顔満開)
カナタ「お風呂、沸いてるよ! ご飯ももう少しで出来るから、先に入っちゃっててねっ!」
「あとでね、ミュンの好きなプリンパフェも作ってあるから!」
ミュン「…………」
(うるうるうるうる)
ミュン「……お、おぉぉぉ……疲れが……疲れが溶けていくミュン……!」
(その場にへたりこみそうになるのを気合いでこらえ、風呂場へ直行)
(風呂上がり)
カナタ「ご飯できたよーっ!」
食卓には、茶碗蒸し、ミニカツ丼、サバの味噌煮、そしてデザートにプリンパフェ。
ミュン「……好きな物ばかりミュン……」
「この完璧なラインナップ、どう見ても素人の手口じゃないミュン……! これはプロの犯行……!」
カナタ「えへへ、全部手作りだよ。ミュン、いつも頑張ってくれてるから。ちょっとした恩返しっ!」
ミュン(じぃんと目が潤む)
ミュン「…………最近のカナタの女子力、国家レベルで上がってるミュン……」
「どこで学んできたミュン……」
カナタ「企業戦士たちのSNSで“男を落とすメシ”ってやつ見てたら、自然と…」
ミュン「学習先に問題あるミュン!!!」
(マッサージタイム)
カナタ「ほら、肩もみもみタイムだよっ。疲れてるでしょ?」
ミュン「……そんな……肩なんて……あっ、そこ……うまっ……!」
(絶妙な指圧により、とろけていくミュンの表情)
ミュン「……っはぁ……ほんとに……良くできた娘だミュン……」
(涙ぐみながら)
ミュン「……こ、こんなに出来た子……嫁にはやらんミュン……!」
カナタ「えっ、誰もそんな話してないけど……!?」
ミュン「話してなくても予防線張るミュン……うちの天使を狙う不届き者は、前世から潰すミュン……」
(そして就寝前──)
ミュン、ふかふかの布団に入りながら。
ミュン「……帰る場所があるって、いいもんミュンね……」
カナタ「ふふ、明日はもっと癒せるようにがんばるね」
ミュン「その向上心がまた涙腺にくるミュン……」
(月明かりの中、静かに灯るふたりの暮らし──)
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