第7.5話 幕間 壊筆特別技官の記録 後編

 私、壊筆硝子かいひつしょうこは霞が関にある秘匿組織合同会議のために設けられた部屋で開かれた臨時会議に参加していた。

 静まり返る室内には、さきほどの私の沈黙がまだ残響のように漂っている。官僚たちの視線は一斉に私へと注がれ、決断を促していた。


「わかりました。日本政府の見解を受け取りました。紫陽花に連絡を取りましょう」


 私の発言で官僚たちの緊張が少し緩和されたように感じる。


「JASMOとの協力も検討させますのでご安心を」


 私としても日本の弱体化は望まない。酷い奴らだ。これは日本を人質に取るようなものなのだから。

 超事調整委員会——略称超調の官僚は静かに頷く。


「ありがとうございます、壊筆特別技官。では、我々、超事調整委員会が行う六月三十一日事案の対処について述べさせていただきます。経済省と公正法務省、内政省、文化芸術省、運輸通信省と連携し、まず当日を国民の完全休日とすることを発表します。電子機器に発生する時間・日にち的齟齬を運輸通信省により強制的に穴埋めさせます。経済省は当日の経済の動きの完全停止、公正法務省は特例法の準備、内政省は当日の緊急事案への対処、文化芸術省は日にちに関する全ての事案への対処を検討しております」


 超調の対処はまあ、妥当だろう。少し強引な気もするが、これ以上はない判断だ。


「ここで一つ問題提起をいたします」


 唐突な超調の官僚の一言に少しざわめきが起こる。

 問題提起? なんだろか。


「紫陽花の異空間に夢災を一極集中させる。問題は誰が対処するかです。我々中央官庁は六月三十一日事案への対処に追われています。つまり夢災への対処はできないのです」


 そこで別の官僚が挙手し立ち上がる。


「国家防衛庁は、国家自衛隊がいるではないですか。彼らに対処できないのですか?」


 誰もが触れなかったところだ。確かに誰もが実働部隊については気にしていなかった。いや触れたくなかったのだろう。


「国家自衛隊は日本国土の防衛を主任務にしているため、紫陽花の領域では活動できません。そこで超事調整委員会は、民間企業に委託させる方向性を検討しております」


 管理たちにどよめきが広がった。民間企業? ウチみたいな企業ってことか? 私の中で疑問が広がる。


「そして超事調整委員会は、指名委託を実施すべきと提言します。候補は四妖警備保障、五異セキュリティーサービス、十遁警備、暁神さとがみ警備保障、異研警備保障、陣ケ下警備保障、魔技研警備保障、ルナス・タリア」


 我が社が挙げられた企業に含まれているのは嬉しいのだが、いくつかの企業はハブられているようだ。都合が合わなかったのだろうか。いや、暁神含む大手は事前に連絡を取っていたのだろう。おそらく。

 嬉しさと不透明感に対する不信感がつのる。官僚たちは裏でどれだけ動いていたのだろう。私はこの部屋での疎外感を覚える。やはりどこでも私は部外者なのだろう。深奥の館の住人はやはり館を出るべきではなかったのだろうか。いや、主観情報の取得には最も効率のいい方法のはずだ。だが、いざとなったら全てを捨てて帰ってしまおう。あの館こそ真の居場所なのだから。いや、我が社こそ居場所ではないだろうか。社長を支える役目は私しかいないだろう。それを忘れるな。

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