第二章
第1話 白豚再来
目を覚ますと、見知った天井だった。
「アーク・ヴィ・シュテリンガー……だよな? 僕」
今さら自身に問いかけるまでもなく、僕はアーク・ヴィ・シュテリンガーだ。現実世界でトラックとの正面衝突により家族と、そして僕自身の命も失い、このオープンワールド型ゲーム世界『グランドテイルズ』へと転生した須藤太一という男だ。
転生前の夢を見ていたから、起きた瞬間は記憶が混濁していた。
「こっちの世界にやって来てからは初めてだな。あの頃の夢を見たのは……ん? てか、いま何時だ?」
室内に備え付けられた年季の入った古時計を確認すると、針はちょうど8時30分を指していた。
「やばッ!」
王立魔法学園『グリンガム』へ入学してから、すでに3ヵ月ほどの時が経過していた。にも関わらず、僕は完全に寝坊した。
1時限目の開始時刻は、午前9時ジャストだ。
「うわっ!」
ベッドからすぐに起き上がろうと身体を即座に反応させたら、自重の影響で派手に床へ落ちた。
「いててて……」
数週間前は簡単にできていたことが実は今、出来なくなっている。
何故か?
うん。まぁ、あれだ。
それは俗に言う、リバウンドというヤツが僕の身にも例外なく、襲い掛かっていたからだ。
「ぶ、無様だ……」
いや、襲い掛かっていたってのは語弊があるな。
正直に言う。
ただの怠惰の結果だ。
コンコンッ
「ア、アーク……さまぁ。朝食、お、お持ちしました!」
自室の扉がノックされ、いつもの朝食が運ばれて来た。
「入れ」
「し、失礼しますぅ!」
すでに身は起こし、一定の体裁は取り戻している。格好悪い姿をメイドに見られるのは僕の自尊心が許さない。
ああ、ちなみにだが。
ゲッティには継続して学内の諜報活動に尽力してもらっているため、今の僕の使用人は二代目になっている。
「どうした? 早く入らぬか、パスタ」
「は、はいぃぃぃ!!」
「……」
彼女、別に新人というワケではない。ウチでの使用人歴はそこそこ重ねている。
だが、見ての通りだ。
ゲッティと違い、この子は手際が悪い。
「さ、さきほどもお部屋に来させていただいたのですが……」
「なぜ起こさん? もう遅刻確定ではないか」
「も、申し訳ございませんッ!」
まぁ、別に遅刻してもまったく問題ないんだけどね。僕は今、学内では相当な権力を持つあの生徒会役員の一員なんだから。
重役出勤で僕を咎める者は誰もいない。
でもまぁ。
遅刻はやっぱりしたくないので、できれば起こしてほしかった。
「(いや。この甘さこそが、リバウンドを招いた真の原因……)」
現実をちゃんと見つめなければいけない。
手が遅いから、パスタはまだ朝食をすべてテーブルに並べきれていない。
脳裏によぎった今がチャンスと心得よう。
最近は見るのを恐れてまったく開いていなかったステータス。
今ここで、再び相まみえることとする。
「(ステータスオープン!)」
―――――――――――
名 前:アーク
性 別:男
年 齢:13(+3)
身 長:162(+22)
体 重:74(+10)
―――――――――――
「……」
いや、太りすぎということはない。
ぽっちゃりだ。あくまでまだぽっちゃりだ。
だが、あの死闘を戦い抜いてから今日へ至るまでに、増加した体重はおそらく+18kg。バンプアップにもほどがある。
「あ、あの! じ、準備できましたッ!!」
「うむ(うんまそぉ!)」
涎が出そうだ。
すぐに肉へ被りつきたい衝動が僕を突き動かそうとする。
ダメだ。まだむしゃぶりつくな。
僕には、あくまで悪役貴族を演じなければいけない定めがある。
相手がメイドとはいえ、僕は醜態をさらすワケには決していかない。
「なにを見ている? もう下がっていいぞ」
「は、はいぃぃぃ! そ、それでは、し、失礼しましたぁ!!」
ホント、毎日そそっかしすぎるだろ、あの子。別に脅したりしているつもりはまったくないのだが。
「でも、まぁ……」
これで落ち着いて食事ができる。
1時限目はもう諦めた。
体裁のことはともかく、そもそも僕があの学園で授業を受ける意味はそもそもないからね。あの学び舎で教えていることなど、すでに僕の頭の中にはギッシリ詰まっているのだから。
僕が王立魔法学園グリンガムへ通っている理由はひとつしかない。
「原作主人公、メルト・ジャンルイジ・セルスフィアからの破滅回避……」
ヤツが生徒会長を垂らし込み、なんらかの策略で僕を生徒会へ招聘してから今日に至るまで、ヤツは特に目立った動きを見せていない。
というよりむしろ……
「めちゃくちゃ友好的なんだよなぁ……むしゃむしゃ」
今日も砂糖がたっぷりまぶされたクロワッサンがとても美味い。
「絶対なんか企んでるはずなんだけどなぁ……もぐもぐ」
朝から油たっぷりのとんかつも最高だ。
「生徒会長もすごくいい人だし……ごくごく……ぷはぁ」
このめちゃくちゃ甘いココアで、油と糖を一気に流し込むこの瞬間は至福だ。
「いや、だがやはり油断はできない。今日の1時限目は休むんだ。いい時間だから、いま一度あの死闘の後の記憶を呼び覚まし、もう一回僕の覇道を呼び覚まそう……げっぷ」
腹は満たされた。
同時にまた怖ろしいほどの眠気に襲われた。
だが、さすがにここで寝ては怠惰が過ぎると思った僕は、頬をつねって無理矢理脳を覚醒させ、なんとかここ3か月の間に起こった一連の出来事を呼び覚ますことに成功するのであった。
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