Chapter 004 ミラクル。

Episode 016 語りの継承、アリスの灯り。


 ――まだ開かれたまま。


 きっとそれは心の扉……


 もう一人の千佳ちかのいう語りのノートは、それが具現化したもの。開かれたそのページの余白に、風鈴の音が染み込んでいる気がした。


 それはきっとアリスが、初めてボクのお家を訪ねた日。


 そっと夏の終わりを告げるための音色。秋の始まりを告げる音色でもあったから……


 ボクはペンを握ったまま、その電子頭脳とかいうユニット。もう一人の千佳が、まるで赤ちゃんを抱いているかのような、大事に扱われている機械に釘付けとなった。


 青白い光が、静かに脈打っている。


 まるで生きているかのように。そこでボクには見えたの、面影が……


「アリス」と、その名を呟いた。


 ボクの声に、その機械は反応している。微かに震えているの。語りが、届いた?


 もう一人の千佳が傍で、語りのノートを見詰めている。彼女の目には涙が。何かわからないけど、わかったような気がした。言葉を素通りし、感覚で語る……


 語りは、誰かの疼き。


 でも今、灯りになって、言葉になろうとしていた。


 その言葉は、アリスのもの。彼女の願いだったの。


 彼女は機械になっているけど、心は彼女だったの。ボクはペンを走らせた。


 ――君の願い、ボクは受け取ったよ。


 ――語りは終わっていない。ボクが続ける。


 その瞬間、機械が強く光った。青白い光が、語りのノートのページに反応するように揺れた。そして機械の奥から聞こえる、微かにだけど、アリスの声が。


「ありがと、千佳」


 ボクは抱きしめた。語りにノート。


 そして「さあ、行こ」と、もう一人の千佳は言った。



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