第18話 再会
「ユウキ」
「カエデ。どうかしたのか?」
アークデーモン含めたモンスターの大群を倒した翌日のこと。
天気が良い朝だったので、日光を浴びようと城の庭にいた時のことだ。
カエデが庭にやって来て、俺の前に立つ。
大木に綺麗な花壇。
それらに負けないほどの美しさと堂々たるカエデ。
彼女は俺を見てクスッと笑う。
「今日は一応、決戦なのだろ?」
「そういうことになってるな」
「だがどうした。その落ち着きようは。まぁ今のユウキからすれば余裕なのだろうがな」
「余裕なのかな……あいつらがどれだけ強いのか見当もつかないし、開き直ってるだけかもな」
今度は大笑いし、彼女は俺の肩をバンバン叩く。
力が強い!
今の俺からすれば大したことではないが……並みの男だったら骨が折れているところだ。
下手したら死んでるかも?
そう思えるほどの腕力に俺は寒気を覚える。
「カエデ。頼むから他の人を叩くようなことはするなよ」
「え、何でだ?」
「分からないならそれでいい。でも人に優しく。そうやって生きて行ってくれ」
俺の言葉の真意を理解することなく、しかしカエデは「分かった」と頷く。
「カエデ。【勇者】たちと戦う前に、最終確認をしておきたい。本当にヴァレルシュタインを支配することに興味が無いんだな」
「ああ。私はバランスとカオスを愛してるからな。良い感じに喧嘩をするのは好きだが、圧倒的な力で相手を刺激するのは好まない。まぁ今のユウキを見ていたら、自然とそうなってしまうのが矛盾してしまうところなんだがな」
「バランスとカオスか……他の国を亡ぼすようなことに手は貸したくないから、そう言う考えならまぁいいや」
「でも少しだけ世界を取ることに興味が湧いてきていたりもする。ははは。矛盾だらけだろ、オレは」
笑うカエデであったら笑えない。
世界を取るって、話しが変わってくるんですけど。
「おいおい。支配なんて興味無いって言っただろ」
「ああ、興味無いね。オレが興味を持つのは、ユウキに世界を取らすこと。ユウキなら三国を支配しても、面白い世界にしてくれそうだろ。そのための天下統一ならやってもいい」
「俺だって興味無いよ。面白い世界どころか、メチャクチャな世界になってしまうかもな」
「それはそれで面白そうじゃねえか! それで、オレはユウキの妃になって。な、面白そうだろ?」
彼女いない男を弄んで、喜んでいるのか?
そう言う冗談が通じない男もいるから止めておいた方が良いぞ。
ちなみに俺には冗談が通用しない。
本気にするからマジで止めて。
「コノハからユウキの話を聞けば聞くほど、興味が湧いてくる。本気で考えておいてくれてもいいぞ」
「本気って……世界には興味無いしなぁ」
俺が困ったように笑うと、カエデは意地悪そうな顔で笑う。
だが可愛いペットを眺めるような目で俺を見ながら、何かをこちらに差し出してきた。
「これは?」
「アカツキでは大事な者に、想いを込めて、お守り代わりとして刀を手渡すんだ」
「カエデの想いがこもってるのか……呪わない?」
「呪うかよ! ちゃんとユウキを守ってくれって祈りを込めてんだよ」
それは小太刀。
俺が所持している刀よりも短い、だが装飾が派手であり、美術品と言った印象が強い。
小太刀を腰に差し、カエデの真っ直ぐな瞳を見つめ返す。
「ありがとう。生きて帰って来るから待っててくれ」
「待つわけないだろ」
「待っててくれないのかよ!」
「オレも見学に行くからな。【勇者】の負け戦なんて、そうそう見れるもんじゃねえ」
「俺が勝つのは確定してると?」
「確定ってかもう絶対の領域だろ。どう考えてもユウキの方が強えよ」
そこまで圧倒的か?
コノハの反応なんか見てたら、凄いってのは分かるけど。
まだ自分の能力を完全に信じ切れていないが、しかし腕の立つカエデがそう言うのだ、間違いないだろう。
コノハの言葉よりは信用できる。
そしてそれから数時間。
午後に差しかかる頃、俺は国境にいた。
アカツキとヴァレルシュタインの境界線、巨大な壁によって国が別けられている。
俺とコノハ、それにカエデ……後は何故か見学者が数百名がその場におり、椅子を持ち出して見学する者、賭けをしている者、飲んだくれて寝ている者までもいた。
「おい。今から運命の戦いが始まろうとしているんだぞ。なんだあの連中は」
「ユウキ様に興味を持った方々ですね。私は仲間ですが同じ気持ちなのでよく分かります」
「どういう意味だよ?」
「劇を見るような気分ですよ。圧倒的強者の実力を楽しみにしてるんです」
本気で面白がってるだけなんだな……
まぁ邪魔にならなかったらいいんだけど。
ヴァレルシュタインに繋がる巨大な門があり、そこにはアカツキの兵士が数人。
逆側には恐らく、ヴァレルシュタインの門番がいるのだろう。
自分でも驚くほどリラックスしていて、俺はその門を遠くから眺めていた。
リラックスしてるのは周囲の所為なんだろうけどな。
「そろそろ来るみたいですよ。あちら側が何やら騒がしいです」
「【勇者】のおでましみたいだな。気合入れろよ、ユウキ」
「ああ。ほどほどに頑張るよ」
アカツキの兵士たちがカエデに視線を向けると――彼女は首肯で応える。
すると兵士たちは扉にかかっている重たそうな
こちらから迎え入れるつもりか……戦うのは俺なんだけど。
大きな音を立てて、扉が開かれる。
門の向こう側には【勇者】の軍団がいた。
総勢26名の【勇者】だ。
彼ら彼女らは、アカツキの鬼族の姿を見て、驚いたような顔をしている。
「鬼だ……本当に鬼が住まう国か」
「結構集まってるじゃん。俺たちと戦うつもりで集まったのか?」
「やる気は十分、戦う気みたいだね」
鬼族たちが俺の戦いの見学に来ているのを見て、自分たちと戦うためだと勘違いしているクラスメイトたち。
全然そんなつもりは無いからね。
ただの見学者だよ。
「久しぶり……かな」
俺は前に出て、クラスメイトたちの正面に立つ。
クラスメイトたちは俺の顔を見て、驚きの表情を浮かべていた。
「鬼族の中に人間がいる……」
「あまり強そうには見えないけど」
「ヴァレルシュタインの裏切者か……そんなことをするやつもいるんだな」
って、誰も俺に気づいていない。
クラスメイトなんだよ?
一緒の教室で授業を受けた仲だよ?
まぁ目立たない存在だから仕方ないと言えば仕方ないか。
俺は悲しいやら呆れたやら、何とも言えない気持ちになっていた。
完全に知らない人を見る目をこちらに向けているクラスメイトたち。
だがそんな中にも、俺を知っている人はいるわけで。
彼らは驚きと嬉しさを含んだ目で手を振ってきた。
「おーい、小金井。やっぱり生きてたんだな!」
「心配したんだけど。ってかなんで小金井、アカツキにいんのよ」
「ヴァレルシュタインを裏切ったのか?」
土方、上坂、三日月。
三人はこちらに駆け寄り、俺の真正面に立つ。
自分を知っていてくれている人たちがいる。
それだけで嬉しくなり、俺は自然と笑みをこぼす。
「ちょっと色々あってな。皆はアカツキを落としに来たんだろ」
「そういうことになってるな……小金井はアカツキ側についてるってことは、俺らと戦うってことなんだよな。そうなっちまうんだよな?」
少しばかり悲しそうな表情をする三人。
三人には申し訳ないが、アカツキを裏切るつもりはない。
俺は大きくため息をつき、ゆっくりと口を開く。
「俺には俺の事情がある。と言っても逆恨みみたいなもんだけどな」
「逆恨み? 何があったのよ。ちょっと話して」
興味深々の上坂。
俺は簡潔にヴァレルシュタインの王女に放り出されたことを説明し始めた。
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